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食における情報との付き合い方 ―東海大学短期大学部社会教育講座から―

2019年1月15日掲出

 現代社会では「情報」は「もの」や「お金」と同等か、それ以上の価値があると言われます。新聞や雑誌、テレビやラジオなど情報源はさまざま。加えて、1990年代以降はインターネットからの情報量が爆発的に増えました。「食の情報」もまた、日々大量に流布されています。中には信憑性の低いものもあり、過信するのは禁物です。

フードファディズムに陥りやすい日本人

 食の情報で特に注目を集めるのは「効能・効果」と「危険性」についてです。ある食品が「健康に良い」となると飛ぶように売れ、「危険性がある」と言われれば消費量が一気に落ち込みます。このように食品が健康や病気に与える影響を過大に信奉、評価することを「フードファディズム」と言います。ファディズムとは一時的な流行を熱心に追いかける、のめり込むという意味です。流行に敏感な日本人はフードファディズムに陥りやすい傾向があり、次の三つの現象がよく見られます。

 ひとつは健康効果があるとされる食品の過剰なブーム化です。寒天、バナナ、納豆など一時的に流行した食品は枚挙に暇がありません。二つ目は過剰な量の摂取。体に良いとされる特定のものばかり食べる現象です。三つ目は、ある食事法や食品を奨めたり退けたりして、「良い食品・食べ方」と「悪い食品・食べ方」というように食を二分化し、過剰に期待したり不安を煽ることです。

 フードファディズムが蔓延する背景には、マスコミの視聴率偏重主義や商業主義が影響しています。センセーショナリズムを追求するあまり、情報を捏造して社会問題に発展、放送中止に追い込まれた番組もありました。健康に良いという過大イメージを与えかねないCMも目につきます。

 メディアが情報を伝えるとき、情報内容のどの部分を取捨選択して伝えるかによって「メディア・バイアス」の歪みが生じます。科学的根拠がないまま報道し、社会現象や健康被害を引き起こすことや、危険性を強調した報道で市民が過剰反応を起こすこともあります。私たちは危うい情報に踊らされないよう、うまく「付き合っていく」必要があります。

 

情報と付き合う時代性

 現代社会では情報の「集め方」より、情報といかに「付き合う」かが求められます。情報はその全てを「正しい」「正しくない」と断定できるものではなく、「正しい部分」と「正しくない部分」が混在しています。いかに「正しい部分」を自分のものにしていくかが肝心です。このような情報との付き合い方のポイントは、「情報を取捨選択する」「情報を常に疑う」「情報を多角的に見る」の三点です。

 「情報を取捨選択する」ことは自分の頭で考え、身につけていく技術です。情報に対する自分自身の意識の持ち方や見方を考えることが大切です。情報は日々更新されますから、余計な情報、すぐには使わない情報は捨てましょう。捨てた情報でも必要になればいつでも入手可能です。

 また、「情報を常に疑う」ことも重要です。情報には必ず、発信する側の意図がありますから、情報の元になった事実や解釈をよく調べ、吟味する必要があります。CMや情報番組には「スポンサー(お金を出してくれる人)」が存在し、その先に「経済活動(商売)」があります。また、同じものを見ても人により見えているものは異なります。情報はあくまでも発信する側のひとつの考えとして受け取りましょう。

 そして「情報を多角的に見る」こと。情報が正しいかどうか判断するために、さまざまな方向から情報を集めることが大切です。インターネットの検索サイトが提供するアルゴリズムは、ユーザー情報に基づくフィルターによって当人の見たい情報ばかりを検索結果として表示するため、まるで泡の中に包まれたように自分が見たい情報しか見えなくなるといった状況を引き起こします。これはフィルターバブル(filter bubble)と呼ばれます。多角的なものの見方を維持し発展させるためには、さまざまな情報源を使って比較すること、そして、ある程度の情報を共有し、異なる意見を容認し合える仲間の存在が欠かせません。

 情報との付き合い方を身につけることとは、情報メディアを主体的に読み解き、必要な情報を引き出し、その真意を見抜き、活用する能力であるメディア・リテラシーを育むことです。これは公的機関、マスメディア、映画、音楽、出版物、インターネット、広告、口コミ、芸術など、多種多様なメディアから玉石混淆の情報が氾濫し続ける社会で生きるために不可欠な能力です。

 

※フィルターバブルインターネットでは、利用者が好ましいと思う情報ばかりが選択的に提示される。このため、利用者は自身の作り出したフィルターで泡(バブル)のように包まれ、思想的に社会から孤立してしまう。

 

メディア・リテラシーの育成と課題

 情報社会への対応として、国内の教育現場ではNIE (Newspaper in Education)を取り入れる試みが進んでいます。これはメディア・リテラシーを鍛えるため、教育に新聞を取り入れる方法で、複数の新聞社の新聞を読み比べ、情報の違いについてディベートを行う学びです。

 NIEに取り組むことで、新聞各社の情報の共通部分や相違部分が明確になり、どこが「事実」で、どこが新聞社や記者の「意見」かなどを見極める能力が養われます。これにより情報の信憑性の判断や、取捨選択する技術が身につくのです。

 教育現場以外でもNIEの手法を使って、メディア・リテラシーを鍛えることはできます。テーマを決めて数人で違う新聞を読むほか、テレビニュースや検索サイトなど異なるニュースソースも活用して、情報を比較する手法です。その際には、異なる意見に対して単に否定するのではなく、お互いの意見を尊重し合うことも大切です。

 間違った食や健康の情報が溢れているのは日本だけではありません。海外も同様で、国によっては政府機関や市民団体などにより、メディアの間違った情報に対してすぐに対応するような仕組みが構築されつつあります。そのひとつ、イギリスの政府機関NHS(NationalHealth Service)では、ウェブサイトにおいて医療や保健に関する多くの情報を提供する中で、新聞やテレビニュースなどで紹介された健康情報について、間違いの指摘や情報の補足を行っています。また、「How to read health news(健康ニュースの読み方)」というウェブ記事では、情報の読み解き方や見分け方なども解説しています。

 日本では、昨年、内閣府の革新的研究開発推進プログラムのチームと菓子メーカーが、カカオ分70%以上のチョコレートに「脳の若返り効果」の可能性があることを確認したと報道され、その後エビデンス(証拠)の信頼性に欠けるという批判が起こりました。内閣府は実験のやり直しを有識者会議に報告しましたが、日本の問題点をクローズアップした出来事でした。日本では、出典は学術論文なのか、学会発表なのか、根拠があるのかさえ説明しない新聞記事やテレビニュース、インターネット情報が溢れています。私たちは、情報を鵜呑みにせず、その情報が信用に値するものなのかどうか見極めることが必要です。

 

 ●本稿は2018年8月10 日開催の東海大学短期大学部社会教育講座「第16回 フードサイエンス〜食の扉〜『食における情報との付き合い方』」の講演内容を編集したものです。

 [講演者および質疑応答登壇者]横村国治講師(東海大学短期大学部食物栄養学科)