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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 東山彰良 『夜汐』

死に物狂いで生きる姿を描くことができたと思う

◆『夜汐』 東山彰良(角川書店/税別1600円)

 時代は幕末。やくざ者の蓮八は江戸でのいざこざから逃れ、京都の浪士組に紛れ込む。のちに新選組となる集団だ。愛する女からの手紙につき動かされ、再び関東に向かった蓮八を、新選組の沖田総司と殺し屋「夜汐(よしお)」が追う―。直木賞作家・東山彰良さんの新作はなんと時代小説だ。

「時代小説というジャンルを選んだつもりはないんです。近年、私はガルシア・マルケスら中南米の『マジック・リアリズム』に心を奪われてきました。物語のなかで生と死が同居するような、四次元的な小説を自分でも書こうとしてきました。今回、日本を舞台にする際に、現代よりも過去のほうがやりたいことができると思ったんです。勤皇・佐幕が入り乱れた幕末の京都を舞台に、蓮八のように歴史に名を残さないちっぽけな存在を主人公に、複雑な時代のなかでの単純な物語を描きたかった」

 幕末を舞台にしたもう一つの理由は、意外にも西部劇だと東山さんは言う。

「私は西部劇映画が好きなんですが、馬が蒸気機関車に変わっていくというように、古い価値観と新しい価値観が対立する時代として、幕末を選びました」

 たしかに、移動する蓮八と追っ手とのチェイスも西部劇的だ。

「蓮八の旅を描くロードノベルにしたかった。大学生の頃、東南アジアを旅行したこともあり、放浪への憧れが今でもあります」

 ここを越えれば女のもとに着くという川で、蓮八と新選組の沖田総司、そして夜汐が対峙(たいじ)する場面は、「ある人に、アメリカとメキシコの国境を流れるリオ・グランデだねと指摘されました(笑)。自分では意識しませんでしたが、象徴的な場所ではありますね」。

 夜汐という殺し屋も象徴的な存在として描いている。

「夜汐はある人にとっては死神だけど、ほかの人にはなんということもない存在です。何を考えているか分からない、とらえどころのない人物ですね」

 コーエン兄弟の映画「ノーカントリー」に出てくる殺し屋を思い出したと告げると、「あの映画はあまり面白くないですが、コーマック・マッカーシーの原作(『血と暴力の国』)は大好きです。少しは影響を受けているかもしれませんね」と笑った。

 本作には、随所に死のイメージが表れる。そこには、幼い日に祖父から聞いた話が影響している。

「祖父は昔軍人で、足を撃たれたのに気づかずに行軍を続けていたそうです。その話もあって、私は小さい頃から死を恐れていました。この作品は、すべてが死という一点に向かって集約していきます。旅する蓮八のそばには、つねに夜汐という死の影がいます。ですが、山の中で死骸を見つけたり周りの人間が次々に死んでいくなかでも、蓮八が死に物狂いで生きる姿を描くことができたと思います」

 ラストでは、明治という新しい時代の価値観がすべてを変えていくことを予感させる。では、夜汐はどこに行ったのだろう?

「よく聞いてくれました(笑)。夜汐は象徴だから、時を超えて遍在するんです。まずは『野性時代』2月号の短編で、別の時代に登場しますよ」

(構成・南陀楼綾繁)

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東山彰良(ひがしやま・あきら)

 1968年、台湾生まれ。2003年『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で作家デビュー。15年『流』で直木賞、17年『僕が殺した人と僕を殺した人』で織田作之助賞・読売文学賞小説賞を受賞。著書に『罪の終わり』『ブラックライダー』など

<サンデー毎日 2019年1月20日号より>

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