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東洋大、竹中平蔵氏批判の学生に「退学」勧告? 立て看板とビラ配布

竹中平蔵氏を批判する立て看板=東洋大立て看同好会のツイッターアカウントから引用

 東洋大白山キャンパス(東京都文京区)で、一人の学生が、同大国際学部教授の竹中平蔵氏を批判する立て看板を掲示し、ビラをまいた。竹中氏は小泉政権時代に構造改革や規制緩和を主導した経済学者だ。学生の抗議活動は大学側により直ちに中止させられた。学生は「大学から退学を勧告された」と訴え、毎日新聞の取材に「おかしいことをおかしいと言えないのは、おかしい」と大学を批判する。大学側は退学させることはないとしている。【大村健一/統合デジタル取材センター】

東洋大4年の船橋秀人さん。「おかしいことをおかしいと言えないのはおかしい」と話す=東京都千代田区で午後7時2分、大村健一撮影

10分後には職員数人が駆け付け

 学生は東洋大文学部哲学科4年の船橋秀人さん(23)。彼によると経緯はこうだ。

 1月21日午前9時ごろ、白山キャンパスの南門付近で、一人で「竹中平蔵による授業反対!」と大書した立て看板を設置し、竹中氏を批判するビラを学生たちにまき始めた。

 ビラはA4判1枚の両面刷り。竹中氏が経済誌のインタビューで語った「若者には貧しくなる自由がある」(東洋経済オンライン2012年11月30日)などの発言を引用し、竹中氏の唱えた規制緩和で非正規労働者が増え、大多数の働く人が不幸になっている――と主張。後半で、竹中氏が東洋大で教えていることについて「皆さんは恥ずかしくないですか。僕は恥ずかしい」「意志ある者たちよ、立ち上がれ! 大学の主役は、我々学生なのだ」と訴えている。

 用意したビラは70枚。メガホンも使わず学生たちに呼びかけ、手渡す。開始から約10分後、10枚ほど配ったところで数人の大学職員が止めに来て、立て看板が撤去された。

抗議活動は退学処分に該当?

 船橋さんによると、このあと学生部の部屋に連れて行かれ、約2時間半、大学職員数人から叱責された。

 職員たちは大声で「(ビラ配布で)大学の印象を悪くしたことを分かっているのか?」「(竹中氏は)影響力のある人だから、今後の君の将来に影響が出るんじゃないか?」などと言った。ビラに記載した「東洋大立て看同好会」(https://twitter.com/6N8JeOXEKgmbO21)のツイッターアカウントについても、職員は「君には表現の自由があるが、それには責任も伴う」などと言い、消去を求めてきた。

 職員たちはさらに、大学が学生に配布する「学生生活ハンドブック」を取り出し、「退学処分」に該当する条件として

 ・性行不良で改善の見込みがないと認められる者

 ・本学の秩序を乱し、その他学生の本分に反した者

と書かれた部分を示して、抗議活動がこれに該当する可能性があると説明。最後に「また改めて君や親に電話する」と言われた。

 船橋さんはやりとりを録音していなかった。

 一連の経緯は、知人のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)への投稿で22日にかけて一気に拡散された。

 学生からの批判をどう受け止めているのか、竹中氏に取材を申し込んだが、同氏は大学広報を通じて「海外出張中のため取材対応は難しい」とコメントした。

大学側「退学処分の事実はない」

 一方、東洋大は23日、大学のサイトに「学生の学内での無許可の立看板設置並びにビラ配布に関する本学の対応について」(http://www.toyo.ac.jp/news/top/201901231500/)とする文章を掲載した。立て看板は「原則禁止」で、無許可でのビラの配布を禁止しているとして、「当該学生に対し指導いたしました」と説明している。

 船橋さんが「退学を勧告された」と訴えている点については、「事実確認と禁止行為に関する説明を行ったが、ネットなどで散見されるような当該学生に対する退学処分の事実はない。本件に関して、所属学部では退学としないことを確認している」と説明。両者の主張は食い違っている。

 大学側は船橋さんとの話し合いの中で、退学処分を勧告したり、ツイッターアカウントの消去を求めたりしたのか。

 東洋大は毎日新聞の取材に「退学は勧告していない。禁止行為を行うと場合によっては処分となる、処分の中には重いものでは退学もある、と説明した」と回答。ツイッターについては「いろいろな意見が生じやすいネットで記事が残り続け、学生本人に不利益が生じないかを案じ、記事を控えた方がいいのでは、という趣旨で説明した」とする。

抗議活動開始から約10分後に大学職員数人が現れ、立て看板が撤去された=東洋大立て看同好会のツイッターアカウントから引用

抗議は何もかもたった一人で

 何が船橋さんを突き動かしたのか。「(竹中氏の)徹底して若い世代を『使い捨て』にするような言動に、ずっと憤りを感じていました」と説明する。年明けごろから「何かをやらなければ」という思いが募り、ビラも立て看板も数日で仕上げた。「勇気が必要で、決断まで時間がかかってしまった」とも。

 船橋さんは特定の政治的な党派や組織に属していない。「何かの団体の代弁と思われると、なかなか関心を持ってもらえない。これまでも属してこなかった。一人でやれば『勇気がある』と思ってもらえるかもしれないし、『あいつ何をやっているのか』と関心を持ってもらえるかもしれないと思いました」

 1960~70年代の学生運動のことは知っているが、立て看板を作ったのは初めて。埼玉県の実家の近くにあるホームセンターで150センチ×60センチほどの板とペンキを買い、一人で作った。作り方が分からず、下書きをしなかったため、字の間違いもあった。ビラにあるツイッターアカウントは「東洋大立て看同好会」だが、実態は船橋さん一人だ。

 大学ではカントなどドイツ哲学を専攻し、パラグライダー部に所属。就職先も決まっていて、4月から東京都内で働く予定という。高校まではサッカー部だったが、フォークソングが好きで、ギターで井上陽水らの曲を弾き語りする。

「少しでも関心を持ってほしい」

 21日以降、船橋さんが見た範囲でSNSには「勇気ある行動に感銘を受けた」などと応援する声が多かった。当初は「東洋大に退学を勧告された」という船橋さんの発信が拡散され、「これで退学処分はおかしい」と大学側に憤る声も多かった。

 批判も寄せられた。船橋さんが竹中氏の授業を受けたことがない点を踏まえ、「ビラや立て看板ではなく、授業に出て本人に伝えるべきだ」という意見があった。しかし、船橋さんは言う。「授業に出て(感想などを記す)リアクションペーパーで訴えても何かが変わるとは思えなかった。竹中教授個人だけでなく大学の姿勢そのものも問題だと思う。それで今回の行動になりました」

 メッセージアプリ「LINE」でも友人が連絡してきた。反響はさまざまだが「非正規雇用」や「高プロ」などについての基本的な質問も寄せられ、「少しでも関心を持ってもらえたのはよかった」と話す。2月以降は入学試験などもあり、卒業まで時間は少ない。それでも船橋さんは、今後も立て看板やビラ以外での抗議を考えている。

 大学や就職先の企業、家族からの連絡は、23日夕方の取材時点ではないという。

毎日新聞のアカウント

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