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2人の医師に聞く「がんになる前に知っておくこと」

24歳で乳がんになった経験がある日本テレビ記者の鈴木美穂さん(右)に話を聞く鳴神綾香さん=(C)2018 uehara-shouten

 生涯でがんに罹患(りかん)する割合は、男性で61.6%、女性で46.2%。しかし、いまだ「自分とは関係のない怖い病気」というイメージを抱く人が多い。「がんと向き合おう」。義妹をがんで亡くした上原拓治さんはそのような思いで、現在公開中のドキュメンタリー映画「がんになる前に知っておくこと」を企画・プロデュースした。【西田佐保子】

 「がんになる前に知っておくこと」は、「乳がんの疑いあり」と判定された経験のある女優の鳴神綾香さんが、腫瘍内科医、外科医、放射線腫瘍医、看護師、がんサバイバー(経験者)ら15人と対話し、がんについて基礎から学んでいく映画だ。監督の三宅流さんは「これまでがんについて考えてこなかった人たちが、いざがんになったらどうすればいいかを学べる映画にしたかった」と語る。

 そこで、この映画の出演者でもある、国立がん研究センターがん対策情報センター長の若尾文彦さん(がん情報研究者・放射線診断医)と、日本医科大武蔵小杉病院の勝俣範之さん(腫瘍内科医)に、「がんになる前に知っておくこと」を聞いた。

「がん情報は、懐疑的、批判的に吟味することが大切」若尾文彦さん

 若尾さんは、「がん=不治の病」だと思っている人がいまだ多いと指摘する。最新データによると、日本人のがんの5年生存率は62.1%に達しているものの、18歳以上の3000人を対象に内閣府が実施した「がん対策に関する世論調査」では、「5年生存率は50%を超えている」と知っていたのは全体の29.5%。「日本では、約2人に1人が、将来、がんにかかると推測されている」と知っていたのも31.3%にとどまった。「がんは身近な病気で、治療後に社会復帰している人も多いものの、正しい知識が広まっていません」と若尾さんは説明する。

国立がん研究センターがん対策情報センター長の若尾文彦さん=(C)2018 uehara-shouten

 「がんは怖い」というイメージから、いざがんを告知され、頭が真っ白になってしまうことも多い。そこで、若尾さんが知っておいてほしい「正しい情報のありか」と「相談できる場所」として挙げるのは、国立がん研究センターがん対策情報センターが運営するウェブサイト「国立がん研究センター がん情報サービス」(https://ganjoho.jp)と、専門的ながん医療を担う全国437の「がん診療連携拠点病院」などに設置されている無料の相談窓口「がん相談支援センター」だ。

 がん情報サービスは、がん対策情報センターが2006年に全国の医療者の協力を得てスタートさせたウェブサイトで、がんの解説や検査、治療、臨床試験のほか、さまざまな支援制度や予防・検診の情報までを発信。患者の手記にも触れることができる。がん相談支援センターは、窓口がある病院に通院していなくても利用できる。患者の家族にも対応しており、トレーニングを積んだ相談員が、医療機関の情報から療養生活、経済的問題などの相談に応じている。

 また、がんになると生じる悩みの一つが「どこの病院で治療を受けるべきか」だ。国立がん研究センターは昨年、肺、大腸、胃、肝臓、乳房の5種類のがんについて、診療連携拠点病院など251の施設における5年生存率を、進行度(ステージ1~4)別に公表した。若尾さんは、このデータだけで施設を選ぶべきではないと考えている。「同じステージグループであっても、高齢者の割合、合併症がある人の割合は異なります。再発や転移のある進行がんの患者さんをしっかり診ているかどうかも報告を読めば分かるので、そのような背景も考えましょう。無理なく通院できる場所にある施設を選ぶことも重要です」

 テレビ、雑誌、インターネットには、「○○でがんが消える」「抗がん剤は効かない」など、がんに関する予防法から治療法まで、さまざまな情報があふれている。その中から情報を見極めるためのポイントは、いつの情報か▽誰が発信しているか▽何を根拠にしているか――の三つだという。では、医師の発信する情報であれば信頼できるのかというとそうではない。「必要なのは、懐疑的、批判的に情報を吟味すること」(若尾さん)なのだ。

 「がんを、人ごとではなく自分事として考えて、いざというときは、がん情報サービスとがん相談支援センターを利用しましょう」。若尾さんはこう話した。

「人生を諦めず、がんと共存する」勝俣範之さん

 日本人のがんの5年生存率は年々伸びている。治療法も進歩し、抗がん剤は、ほぼ全てのがんに効果が期待できるようになった。とはいえ、年間死亡者数は約37万人に達し、日本人の死因ではトップとなっている。「やはり難しい病気です。残念ながら、進行がんの場合、治癒する可能性は低いですが、以前に比べ、がんと『共存』できる期間は長くなりました」と勝俣さんは話す。

日本医科大武蔵小杉病院の勝俣範之さん=(C)2018 uehara-shouten

 勝俣さんによると、「ステージ4=末期がんで、余命は数カ月」という認識は正しくないという。ステージ4と診断されても、抗がん剤治療を受けながら仕事を続け、10~20年生きる人もいる。反対に、ステージ1だからといって、再発の可能性はゼロではない。「だからこそ、治った、克服したと、簡単に言うべきではありません」。大切なのは、がんとうまく付き合うこと。勝俣さんが「共存」という言葉を使う理由はここにある。

 がんと共存するためには、診断を受けた後に「緩和ケア」に取り組むことが大切になる。緩和ケアと聞くと、終末期やホスピスを思い浮かべる人は多い。しかし、世界保健機関(WHO)の定義では、「生命を脅かす疾患を持つ患者や家族が、痛み、身体的、心理的、精神的な問題に早期に気付き、的確に対応することで、苦しみを予防し、和らげ、クオリティー・オブ・ライフ(QOL、『生活の質』のこと)を改善するアプローチ」とされている。早期に緩和ケアを取り入れることで、QOLが向上し、生存期間(予後)も延びるというデータもある。

 進行がんの患者を対象にしたアンケートでは、「自分のがんは治る」と答えた人は8割にも上ったという。「治したい気持ちは否定しません。ただ、治療効果が期待できない過剰な抗がん剤で苦しむ人が多い。頑張りすぎてしまうと、治療のための人生になってしまい、本人も家族も疲弊します」。治療の目的は、病気を治すためだけではない。QOLを保ち、いい人生を送るためでもある。

 がんと付き合うために必要なのは三つの「あ」だと勝俣さんは言う。「がんと診断されても、焦らず、慌てず、諦めない。がんは治らないから人生はおしまいだと考える。それは全く違います。人生を諦めないことが何より大切です」

「がんになる前に知っておくこと」上映情報

新宿K’s cinemaで公開中。大阪、京都、名古屋など全国順次公開

公式ウェブサイト :http://ganninarumaeni.com/

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