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ややパリには遠く~南仏留学記

寒さを避けて楽しむ「ゲームの夜」 冬場のフランス、こんな過ごし方も

いろいろな種類のチーズを食べて、ゲームの前に腹ごしらえをする「ソワレ・ジュー」のお客さんたち=2019年1月25日、久野華代撮影

 フランス語を身につけるため2018年4月からフランスに留学しています。新聞記者の仕事を離れ、語学学校に通う日常生活を日記風につづっています。昨年4月から北部のルーアンで、10月からは南部のモンペリエで、ホームステイをしながら過ごしています。

 フランスでも今月、インフルエンザの患者数が警戒レベルを超えて全土で流行しています。新聞には「インフルエンザの感染防止にはマスクを使いましょう」という記事が載っていました。ただ友人のソラヤさんによるとフランスでは「マスクをしているとインフルエンザよりもっと重篤な伝染病にかかったと思われる」そうで、街ではマスク姿の人をほぼ見かけません。しかし、トラムに乗れば盛大なくしゃみが聞こえてくることがしばしばあって流行を実感します。インフルエンザではありませんが、私もこちらで風邪を引きました。下宿先の夫妻は、のどが痛いと訴えればプロポリスエキスのようなものをとかした水でうがいを指示し、鼻がつまって苦しいと言えば枕元に爽快感のあるエッセンシャルオイルを垂らし、熱が下がれば「免疫力を付けなさい」とハーブティーをすすめてくれました。フランスでは、「普通の風邪ならとにかく休むこと」と言って、薬を飲まない人も多いようです。弱った身には夫妻が世話をやいてくれるのがうれしく、温かい布団で養生できる喜びをかみしめました。

 異国で体調を崩すと、普段よりもさらに心細く、不安になるものです。高校1年生の夏休みに英国での語学研修に参加した時のことですが、ここでも風邪を引きました。しかし体調が悪いことをホームステイ先の人に伝えられず「ちゃんと学校へ行きなさい!」と家から追い出されました。おなかを押さえてのたうち回って訴えればよかったのですが、そんな度胸もなく、しくしくと泣きながら学校へ。今、思い出しても当時の自分が気の毒。異国で風邪を引いた人には親切にしてあげたいと、なおのこと思います。

「ソワレ・ジュー」

 モンペリエは、温暖な南仏とはいっても冬はダウンジャケットを着込んだ人も多く見かけます。2月の平均気温は、東京より2度ほど高い程度。日没の時間は、最近は午後6時ごろと少し遅くなりましたが、先月までは午後5時には夜のとばり。カフェの店先はオレンジ色の電灯で照らし出されます。フランス北部・ルーアンで暮らしていた昨年の夏、午後10時ごろまで日の沈まない長い昼の様子をお伝えしました。あの時、人々はライブやサーカスなどの野外イベントを楽しみながら過ごしていました。では、寒い冬の夜はどう過ごしているのか。下宿先には時々、夫妻の友人たちがテーブルゲーム(ボードゲーム)をしに家にやってきます。「ソワレ・ジュー(ゲームの夜)」と呼んでいます。午後8時ごろから、60代半ばの下宿先の夫妻とほぼ同年代の男女がワインなどを手土産に参集。まずは、夫妻が用意したスープ、チーズ各種と夫妻お気に入りのパン屋のパンに、ワインやビールで腹ごしらえします。お客さんの数はいつも8~10人ほどで互いに顔見知りの人もいれば、この夜が初対面という人もいます。大きなスクリーンを持つホームシアターを備えたソフィーさんの家では「ソワレ・フィルム(映画の夜)」というものを開くそうで、「今度ご招待します」と言ってくれました。

 議論好きのフランス人だけあって、集まれば「ビニール袋に入れてレンジでチンした野菜はおいしいかどうか」といったような話題でさえ百家争鳴。お酒や笑いで体が温まってきたところで、テーブルの上をきれいに片付けてゲーム開始。伝統的な「モノポリー」の他、二つのチームに分かれて語彙(ごい)力が試されるゲーム「コードネーム」などを楽しみます。デザートのため水入りをはさみながら、白熱した夜が更けてゆきます。金一封は出ません。

ビニールカバーが外されて、太陽の光を取り込むようになったコメディ広場のカフェのテラス席=2019年2月16日、久野華代撮影

フランス人の「常識」?

 先日、「闘鶏」(おんどりはフランスのシンボル)と名の付いたフランスに関するクイズで遊んだ時のことです。4、5人ずつの2チームに分かれて、「地理」「歴史」「ファッション」「映画」「歌」などのジャンルが記載されたサイコロを振り、出た目に従って出題されるクイズに答えます。フランスの「一般教養」を知る機会になるかもしれないとの期待から、私もチームの一員として出題に耳をそばだたせました。

 「1789年7月14日に起きた重要なできごとは何?」という問題には、みんなが「簡単過ぎる。ハナヨが答えなさい」とお鉢が回ってきました。「革命で…」などと私一人が泡を食っていると左右から耳打ちをしてくれる人があり、「プリーズ・ドゥ・ラ・バスティーユ!(バスティーユ襲撃)」と答えてポイントをもぎ取りました。一方、「絶対王政の基礎を築いたブルボン朝の王、ルイ13世。この人の宰相は誰!」と問題が読み上げられるとその瞬間、みんなが一斉に沈黙。日本の高校の世界史の教科書にも出てくる「リシュリュー」が正解ですが、解答を絞り込めず時間切れになってしまいました。答えを聞いてから「あー、やっぱりそれだったか!」と言い出す人が多くいましたが後の祭り。私がもし高校生だったら自信を持って答え、称賛を得られたかもしれませんが。

 また、「文学」からの出題で「『第二の性』の作者は誰?」という問題。解答権がある相手チームは5人のうち1人を除き男性でした。彼らの合議では「ボーボワールであってる?」「いや(フランソワーズ・)サガンじゃないか」と同時代のフランス人女性作家が混同されてまとまりません。結局、その1人の女性に念を押して「ボーボワールでファイナルアンサー」と答え、かろうじて得点。日本でも「クイズ・ミリオネア」として人気のあった英国発祥のクイズ番組はかつてフランス版も放送されていたそうで、こういう言い方をしていました。1970年代にフランスの女性解放運動を支えたボーボワール。女性4人、男性1人の自陣では「分からないとか、ちょっと勘弁してよ」という空気が流れ、あきれかえったのは言うまでもありません。語学学校の授業でフランスの女性運動史を聞きかじった程度の私もこれに付和雷同。続く、「クリスチャン・ディオールの男性用香水『ソバージュ』で知られる俳優といえば?」という問題には、「アラン・ドロン」と男性陣が即答していました。2018年のジェンダーギャップ指数がG7で最高の12位(149カ国中。日本は110位)のフランスですが、フェミニズム運動の先駆者との扱いの違いに「クイズでは男女間ギャップがあるのね」とでも言ってみたくなりました。

 とはいえ、「リシュリュー」や「ボーボワール」が出てこなかったりするのをフランス人の「教養」と一般化したいわけではありません。当然のことのように知っていても、いざ「クイズ」として出題されると答えが出てこないのは、よくあること。それよりも、フランスに来たばかりの昨年4月、ルーアンの下宿先の食卓で会話に入ることができず、ラザニアをゆっくりゆっくりと食べていた孤独を思い出すと、こうして友人たちにまじってクイズの夜を楽しめることに心が和みます。

 モンペリエの中心部・コメディ広場のカフェでは先日、寒さよけのビニールカバーがテラス席から取りはずされました。テーブルでは上着は着込みつつも、サングラスをかけて太陽の光を浴びる人たちでにぎわっていました。私のフランス滞在も残り1カ月と少し。季節の移ろいを感じればそれだけフランスから離れる日が近づいたことを意味し、少し寂しくなります。【久野華代】

久野華代

1983年三重県生まれ。東京外国語大学を卒業後、2006年に毎日新聞に入り北海道や東京で記者として働いた。日当たりの良いテーブルか、あたたかい布団で本を読むことが好き。寒い部屋ならルイボス茶をいれる。山菜採りも好き。

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