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本郷 和人・評『粋を食す』花房孝典・著

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江戸っ子は蕎麦を粋な食べ物に育て上げた

◆『粋を食す 江戸の蕎麦文化』花房孝典・著(天夢人/税別1600円)

 新年早々、妙なニュースにモヤモヤした。一代で財を成した。敬服のほかない。美女のハートを射止めた。女性が才能と財力に惚(ほ)れるのは道理だ。けれど、大金をお年玉代わりにばらまくというのは……。間違っちゃいない。人助けにもなるのだが……何か違う。こういう時、何といえばいいのか。……粋じゃあねえ。そうか、粋かヤボかだ。私たち日本人は善悪とも利害とも異なる尺度、粋というやせがまんを大事にしてきたじゃあないか。

 室町時代後期、貴族趣味はすたれ、生活に根ざした文化が生まれた。江戸時代、武士に代わって庶民が文化の担い手になり、粋の概念が生まれた。粋な食べ物といえば、鮨(すし)・天麩羅(てんぷら)・鰻(うなぎ)。今や日本料理の代表となったこれらに先がけたのが、蕎麦(そば)であった。米が取れぬ荒廃した土地でやむなく生産される蕎麦。貧相な作物を江戸っ子は粋な食べ物に育て上げた。

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