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毎日フォーラム・特集

日本の手仕事 伝統の技を受け継ぐ「ものづくり」

じょうろの特徴を来場者に説明する根岸洋一さん(中央)。通訳はイタリアの園芸家、クレスピ・ルイージさんの孫のマテオさん(右)が引き受けた=イタリア・ミラノ市郊外で2019年1月26日

海外を視野に入れる若手職人たち

 日本の伝統に根ざした「ものづくり」の技術が海外へ発信されている。外国の見本市への出展をはじめ、若手の職人たちが海外で販路の開拓に努めるなど、技術大国のなかで受け継がれる「手仕事」が海の向こうで熱い視線を浴びている。

     今年1月25~28日、イタリアのミラノ市郊外の国際展示場「ロー・フィエラミラノ」で開かれたライフスタイルの見本市「HOMI」(ホーミ)。リビング・住まいのパビリオンの一角で、日本のじょうろのデモンストレーションが行われていた。

    「村山大島紬」を紹介する田代剛章さん=イタリア・ミラノ市郊外で2019年1月26日

     「『「竿』を長くしているのは水圧をコントロールして安定した散水をするためです」。来場者に説明していたのは、日本で唯一の盆栽用銅製じょうろメーカーで、東京の下町、墨田区に工房を構える「根岸産業」3代目の根岸洋一さん(43)。小さな鉢植えの中で植物をはぐくむ日本の盆栽は「BONSAI」として海外にも愛好家がいるが、それらの人々にとっては水やりの世話は大事なひととき。使う道具も最適なものをそろえたい。

     創業者の祖父はもとは神社仏閣の屋根職人だった。終戦間際にトタンなどで生活用品を製造する会社を興し、園芸用じょうろをつくり始めた。中学時代から家業を手伝っていた根岸さんは大学卒業後、システムエンジニアになったが、兼業でじょうろづくりの腕を磨き、2013年に父が他界したのを機に専業となった。

     すべての工程は手作業で、製作できるのは1日4個。「銅の溶接の際に使うコテは高温にするため電気ではなくコークスで熱している。銅は耐久性が高い。水に溶けた銅イオンによって水質を保全し、コケなどの生育を助ける効果がある」と話す。ミラノでの展示には、イタリアで日本の「BONSAI」を広めた園芸家、クレスピ・ルイージさんの家族が応援に駆け付けた。

     ミラノのジュエリー・デザイナーで「BONSAIが好き」と言うアレックス・ルッカさん(46)は銅製のじょうろを手にしながら「機能美に優れ、使えば使うほど味が出ると思う」と感心した様子だ。

    人形の小道具などを製作する岡半の岡田雄二さん夫妻

     「このじょうろの特性について、人づてではなく自分で直接、説明できることにやりがいを感じた」と根岸さんは言う。すでにイタリア、ドイツ、ロシアなどのバイヤーから注文があった。

     同じ墨田区からは今年で創業102年の「宇野刷毛(はけ)ブラシ製作所」も参加し、3代目の宇野三千代さん(51)が洋服ブラシやボディーブラシの製作の実演をしていた。

     ミラノは、繊維産業の発達で「ファッションの都」に成長した。「カシミヤのコートやスーツには馬の毛の柔らかな部分を、スエードには豚毛を用いるなど素材によって毛材は異なります」と宇野さん。展示会では、木製の組子を持ち手にした「雅ブラシ」と名付けた万能タイプの商品を紹介した。「ミラノをはじめイタリアはもともと職人気質がある国なので親和性がある。ブラシの歴史はヨーロッパの方が古いが、東京の手仕事のよさを伝えたかった」という。

     HOMIへの出展を呼びかけたのは、東京都中小企業振興公社の総合支援部城東支社(葛飾区)が展開する「東京手仕事」プロジェクト。東京の伝統工芸品に光を当てて国内外に紹介するほか、職人とデザイナーの共同製作による商品開発などを進めている。HOMIへの出展は昨年に続いて2回目。染織や刃物工芸、人形用の造花など公募に応じた36の企業が出展した。

     和装関連では「村山大島紬」が目を引いた。絣染めから織りまで手作業で続ける東京都武蔵村山市「田房染織」の4代目、田代剛章さん(38)が伝統を受け継いでいる。

     同市周辺では、明治から大正時代にかけて木綿の絣織物、村山紺絣が生産され、それと、立川市砂川町などで織られていた玉繭による「砂川太織」が合流し、絹織物の村山大島紬が誕生した。板締めの染色技術が群馬県伊勢崎市から導入されるなどして生産に弾みが付いたが、3代目の父隆久さん(67)が30代のころから陰りが見えてきた。着物の需要の減少とともに生産者も姿を消し、いまでは田房染織のみとなった。

     大学を卒業した22歳から父とともに製作に打ち込む剛章さんは、色合いを工夫して現代のニーズを探る。「他の紬と比べて、板で絣(模様の糸)を染める分、糸を傷つけないため、つやと張りが生まれる。着物文化とともに日本の着物生地の技術を知ってもらいたい」と意欲的だ。

    豊かな森林資源「日本の木工」を世界に

     デザイナー喜多俊之さん監修

    「AKITA COLLECTION」を監修した喜多俊之さん

     「AKITA COLLECTION」(アキタ・コレクション)と銘打つブースは、大阪とミラノを拠点に活動する世界的なプロダクトデザイナー、喜多俊之さん(76)の監修のもと、秋田県の家具職人らによる椅子やテーブル、間仕切りの空間などが披露された。

     秋田には県土の約7割を占める約82万ヘクタールの森があり、その半数がスギを中心とした人工の針葉樹。「豊かな森林を有効活用して世界に通用する家具をつくろう」との喜多さんの提案を受け、秋田県内の家具製造会社や木材加工メーカー計11社と県が協力してプロジェクトが始動した。

     喜多さんは、職人たちと対話を重ねながら自らデザインを手がけた。製作にあたっては各メーカーが連携し、HOMIへの出展は今回で3回目だ。

     「優れた素材と技術力、ものづくりのマインドがあるのが日本の強み。産地とタッグを組み、新たなデザインをほどこしながら『日本の木工』を世界にアピールする。その一つの実例が秋田との協業だ」と喜多さんは言う。

     イタリアやドイツなど欧州では、人と自然の関係、街づくりや人々の暮らし方を含めて住空間をトータルに考え、それぞれの暮らしをオープンにしている。「人と人とのコミュニケーションが少なくなってきたといわれる今、日本も『間に合わせの暮らし』ではなく、居心地のいい空間を整えて人が集う場をつくる必要がある。その一つの要素が家具であり、日本の森林資源を生かした家具産業が発達すれば、地域の活発化につながる」

     こうした国際見本市への参加は、自分たちのものづくりが、海外のバイヤーにどう評価されるかを知る機会になる。

     同コレクションのリエゾン(調整役)を担う柿﨑公明さん(66)は、「まずは日本の固有種であるスギの存在を知ってもらい、海外で需要をつくることだ」と出展の意図を説明する。

     一昨年の初出展のときは、外国の専門誌などが「スギ」という日本独自の木材に着目し、それらの記事を読んだ米国や北欧のインテリアデザイナー、家具職人らが「秋田に視察に来た」という。

     昨年はイタリア人の来場者もSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)で発信した。「今年は実際にインテリアメーカーが輸送コストなど具体的な問い合わせをしてきている。3回の出展で、ブランディングはほぼうまくいった。現在は販売や契約の成立に向けて動いている」と柿﨑さんは今後の展開に希望をつなぐ。

    「MIYAVIE」のブースでは、イタリア人のバイヤーらがソファの座り心地を試していた

     今回が初出展となった福島県いわき市の「トラスト企画」は、自社ブランド「MIYAVIE」の新作を発表した。ポリエチレンなどの樹脂を素材にしたソファや照明器具などで、デザインは仙台市出身のデザイナー、木村浩一郎さん(55)が引き受けた。「樹脂で網状に編まれた構造。通気性や通水性に富み、使用後も再生可能なのでエコでもある」と同社業務部長の椎名弘直さん(40)は解説する。福島は東日本大震災で大きな打撃を受けたが、困難な状況のなかで新しいプロダクトが生まれている。

    新たな販路を世界に開拓

     日本の伝統産業を担う若手は、技術の習得、継承だけでなく、インターネットなどを駆使して新たな販路開拓を試みている。

     今回は出展していないが、京都市の茶筒の老舗「開化堂」の6代目、八木隆裕さん(44)は、外国人が茶筒をコーヒーやパスタの保存缶に利用していることにヒントを得て、英仏など海外展開に乗り出した。

    開幕イベントであいさつするフィエラ・ミラノ社のファブリッツィオ・クルチCEO=2019年1月25日

     開化堂は1875(明治8)年創業で、ブリキや銅などを素材に密封性の高い茶筒を製造する。「ものづくりの粋は国境を越える。それぞれの工芸には、使う人や用途に合わせて進化してきたゆるぎないものがあり、それをきちんと伝えられればおのずと海外にも広がると思う」と語る。

     「東京手仕事」の参加企業の一つ、造花製造「岡半」は海外の実演はこのHOMIが初めて。3代目の岡田雄二さん(66)は、日本の造花の技術を海外で披露することに加え、「外国の見本市に出展できるほどの魅力があるということを(日本の)次世代に知ってもらう機会になれば」との思いで臨んだ。

     岡半は、桃や橘(たちばな)といったひな人形の飾りに使われる造花などの製造で知られ、白布の染織や裁断から始まる、手作業で仕上げている。

     創業は1922年。祖父が東京の下町、台東区で仕事を始めたが、翌23年の関東大震災で被災して埼玉県の浦和(現さいたま市)に移転した。

     高度経済成長期、催事やひな人形の需要拡大も加わって造花の生産は伸び、製造が間に合わない時期もあった。

     大学を卒業して人形問屋に就職した岡田さんは、家業を継ぐため5年後に退職。だが、時代の流れで、「私が帳簿を預かるようになったころから勢いが弱まってきた。ものをつくる楽しさを追い求め、そろばん勘定だけに走りすぎないことが継続につながった」と振り返る。

     HOMIでは、仕事のパートナーでもある妻弘子さん(60)と実演台に上がった。

     「私たちがこれまでつくってきた造花は、商品の引き立て役なので、積極的に表に出ることはなかった。これからは、商品開発にも力を注いでいく」といい、ブースにオリジナルのモビール「ゆらぎ盆栽」を飾った。

     HOMIを視察した専門紙「ホームリビング」の編集発行人、長島貴好さん(79)は「景気の動向を反映してか、全体的に大衆品の展示が目立った。そのなかで、東京や秋田の展示には伝統的手工芸の技が底流にあった。20年東京五輪・パラリンピックを前に、インバウンド(訪日外国人)にも注目されるのでは」とみる。

    見本市HOMIに世界1500社が出展

     HOMIは年2回の開催で、11回目の今回は約1500社が出展し、イタリアをはじめロシア、スペイン、中国、日本など世界90の国・地域から約8万人の業界関係者らが来場した。主催したフィエラ・ミラノ社のファブリッツィオ・クルチCEO(46)は「ミラノはビジネスチャンスにあふれる国際的な『ハブ』を目指している」といい、見本市が新たな出会いの場となるよう期待する。

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