- ポスト
- みんなのポストを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷
アンティークが好きで仕方なかった。初めてパリに行ったのは27歳の時だったかな。古着の服や、それにまつわるすべての品物に魅せられた。それからしばらく蚤(のみ)の市に行きたくて、私はパリに憧れていた。今はさすがにそういう気持ちからは遠くにいる。
最初に入院した時、インスタグラムの骨董(こっとう)品を扱う投稿を見るのに熱中した。「退院したら、この中の服を1枚買うわ」。娘は「それがいいわ」と励ましの気持ちを込めて言ってくれていた。骨董品という狭い中での選択肢にこだわっていた。不思議だ。今ではみじんも興味がなくなっている。あの時は、何かに心を移さないと自分が壊れそうに思えていた。入院していても、退院してしばらくも。何かにつかまっていたかった。
今、すっかりそんなことを忘れて、私は普通になった。それどころか、何かを欲しがる気持ちはむしろ断捨離の対象になり、物を減らすのが楽しくなった。娘の力を借りて、必要ないものがすっきり片づいていく。初めはそんなものまで捨てるのと嘆いていた私だが、娘の判断の確かさがありがたい。
この記事は有料記事です。
残り357文字(全文814文字)