パラアスリート交差点2020

変化を恐れない 「脚」でバランス取る=競泳・山田拓朗

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 5月の大型連休中、僕は海外へ遠征していました。英国のグラスゴーとシンガポールで開かれた国際大会のワールドシリーズに出場しました。東京パラリンピックに向け、強化のピッチを上げていきたいと思います。

 僕の泳ぎを見た人から「左手がないのにどうやって真っすぐ進むのか」と聞かれました。自分では意識していませんでしたが、少し解説したいと思います。

 僕は自由形ですが、右腕と左腕の重さが違うので、飛び込む際に多少傾きます。両腕のない選手は真っすぐに飛び込めますが、それほど気になるレベルではありません。泳ぎに影響するのは入水の瞬間の姿勢です。

 健常者や両腕のある選手は、両腕や両脚を真っすぐに伸ばす「ストリームライン」という姿勢を取りますが、僕はこの姿勢をきちんと取れません。水の抵抗が大きくなるので、飛び込む際に生み出したスピードをできるだけ落とさずに泳ぎ出すことが重要になります。

 ストローク(腕のかき)も左右で力が違うので、そのままでは曲がってしまいます。右手でかく力の方が大きいので、何もしなければ左の方に曲がります。カヌーでこぐ姿を思い浮かべてもらえれば、分かりやすいかもしれません。左右均等にやや外向きへかくことで、真っすぐに進みます。しかし、これもあまり意識していません。

 バランスを取っているのは「脚」です。健常者は主に推進力を生み出すために脚を使っていると思いますが、僕の場合はバランスを取る動きが加わります。そうした動きをいかに減らせるかが推進力を増やすカギになります。

 クロールで呼吸をする時のことをイメージしてもらえればと思いますが、泳いでいる際にバランスを取るのは脚より手の方が簡単です。手で水をとらえる感覚は水泳選手でなくても分かると思いますが、脚で水をとらえる感覚は分かりにくい。脚は手ほど器用ではありません。しかし、手や腕が持つ推進力はとても大きいので、バランスを取るために動かすのは得策ではありません。だから脚でバランスを取るのです。(あすは陸上・高桑早生です)(タイトルは自筆)


 Q 元号が令和に変わりましたが、どんな時代にしたいですか?

 A 災害の少ない時代になってほしいと思います。僕は幸いにも無事でしたが、平成では多くの人が震災に見舞われました。

 1995年の阪神大震災では、神戸にあった父の会社が被災しました。2011年東日本大震災の時は筑波大に在学し、講義中の教室で天井が落ちてきたり、住んでいたアパートに被害があったりしました。17年には世界選手権の直前合宿をしていたメキシコで大地震がありました。人々が安心して暮らし、選手が競技に打ち込める「令和時代」になることを祈っています。


 ■人物略歴

やまだ・たくろう

 兵庫県三田市出身。先天性の障害で左肘から先がない。競泳男子自由形で短距離が専門。パラリンピックには、日本歴代最年少の13歳で臨んだ2004年アテネ大会から4大会連続出場。16年リオデジャネイロ大会は男子50メートル自由形(運動機能障害S9)で銅メダル。NTTドコモ所属。28歳。

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