開沼 博・評『80年代音楽解体新書』スージー鈴木・著

歌詞の背景にある構造を分析し新たな物語を重ねていく

◆『80年代音楽解体新書』スージー鈴木・著（彩流社／税別1600円）

　いつからか、テレビを見ながらスマートフォンやパソコンをいじり続けることが習慣化してきた。ニュースや映画、ドラマを見ながら関連情報を調べる。意外と細かいことを勘違いしていることに気づいたり、次に見るべき作品に出会ったり。他方で、本についていえば、以前ほど熟読する機会が少なくなった気がする。そうする時間がなかなかない。必要な情報を拾っていく感じ。ネット上の文をそう読んでいるからだろうし、身の回りに文字情報が溢(あふ)れすぎて、熟読に割ける可処分時間が減っているのもある。

　そんな中で、本書は久々に熟読してしまった。読んでは立ち止まってスマホを見る。なかなか読み進められない。でも、頭の中にはさまざまな思考が蓄積されていく。検索するのは1980年代に生まれた流行歌の曲や歌詞。私自身が最も親しんだ音楽は90年代のＪポップなので、本書に出てくる曲名の半分ぐらいしかピンとこなかったが、実際の曲を聴けば「あーこの曲か」とわかる。そうしながら改めて著者の独特の筆致を反芻(はんす…