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辻原登・評 『大岡昇平の時代』=湯川豊・著

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 (河出書房新社・2484円)

愛するものについてうまく語れない

 『俘虜記(ふりょき)』(一九四六)で始まり、『昭和末』(一九八九)で終わる、昭和という時代を、昭和の作家が身を賭して残したものを、現在の日本文学は受け継いでいるか。昭和が終わってさらに三十年が経(た)つが、大岡昇平の文学的業績はその重要さに拘(かか)わらず未(いま)だ検証されないままである。二〇一九年の今こそ、大岡文学の全エッセンスを正確に抽出し、我々の「現在」としてくれる「仕事」がまたれるのである。

 若年期のスタンダール、大岡昇平耽読(たんどく)の日々を送ったスタンダリアンであり、『須賀敦子を読む』『星野道夫 風の行方を追って』にみる優れた人間観察者、『イワナの夏』『夜明けの森、夕暮れの谷』の、鳥と虫の目を持つ自然観察者にして当代一流のリズール(文学観察者)である著者による「仕事」がここにある。

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