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地球の肺を守ろう〜コンゴ熱帯雨林保護の最前線から(8)「環境重視」示した新政府=大仲幸作

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環境省内で前任者(保健大臣が兼務)と引継ぎ式を行うニャムガボ環境大臣(右)=2019年9月撮影(大仲幸作さん提供)
環境省内で前任者(保健大臣が兼務)と引継ぎ式を行うニャムガボ環境大臣(右)=2019年9月撮影(大仲幸作さん提供)

 数カ月ほど前から世界で注目を集めている南米アマゾンの森林火災を、私はここコンゴ民主共和国の首都キンシャサから複雑な思いで眺めています。途上国政府の開発重視の方針、違法活動によって深刻化する森林減少、途上国と国際社会(特に欧米諸国)との環境政策を巡るあつれき……。熱帯雨林問題のこうした構図は、何もアマゾンに限った話ではありません。私が支援活動を行うコンゴ盆地をはじめ、多くの熱帯地域に共通するものです。

 そんな中、課題解決のカギとなるのは、その国の政策、よりわかりやすく言えば、大統領や大臣の課題への姿勢です。例えば、今回のアマゾンでの森林火災の急増は、2019年1月に就任したブラジルのボウソナロ大統領のアマゾンに関する政策が主な原因の一つになっているといわれています。同大統領は8月末にフランスで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)で先進国首脳が合意した20億円以上の緊急支援を「いらない」と突き返しました。そうした環境軽視の政策に業を煮やしたノルウェーやドイツは、アマゾンを保全するための資金援助の中断を決定するいたりました。

コンゴ盆地の地域住民による焼き畑現場=2019年2月撮影(大仲幸作さん提供)
コンゴ盆地の地域住民による焼き畑現場=2019年2月撮影(大仲幸作さん提供)

 では、アマゾンに次ぐ規模の熱帯雨林が広がるコンゴ盆地の政策は、これから一体どういった方向に進もうとしているのでしょうか。コンゴ盆地の約6割を有するコンゴ民主共和国では、18年12月末に大統領選挙が行われ、チセケディ大統領が新たに就任しました。しかし、国会で多数派を占める前大統領派との権力争いの影響によるものか、半年以上にもわたって内閣が組閣されず、環境大臣も空席の状態が続きました。そんな中、19年9月にやっと新しい内閣が発足しました。そして、先般ニューヨークで開催された国連総会が、コンゴの新政府としてコンゴ盆地への姿勢を打ち出す初めての機会となりました。

 国連総会にはコンゴ環境省から大臣、次官以下多数が出席しましたが、今回、私はキンシャサで留守番でした。大統領の演説をインターネットのライブ映像で見終えた私は胸の高鳴りを抑えることができませんでした。大統領の演説では、紛争、軍事や経済インフラなどの言及が通常ほとんどを占めます。これに対し、今回は相当部分を環境に割り当てた上で、「コンゴ盆地の森林保全に向けて重要な役割を果たしていくため、パートナー(先進国、国際機関や環境NGO等)との対話を開始する」と表明したのです。これは「アマゾンはブラジルのもの」であると激しく主張したボウソナロ大統領の演説とは明らかに一線を画す内容でした。

大臣就任式の日 職員やマスコミ関係者でごった返す環境省=2019年9月撮影(大仲幸作さん提供)
大臣就任式の日 職員やマスコミ関係者でごった返す環境省=2019年9月撮影(大仲幸作さん提供)

 国連総会から数日の後、私は当地で定期的に開催されている大使館や援助機関の環境担当者の会合に出席しました。主な議題の一つは「コンゴ政府との対話」です。幹事役も、大統領が国連総会で行ったスピーチ原稿を出席者に配布しながら、私と同じように少々興奮気味に「全14枚のうち、何と2枚が環境分野の課題に費やされた」と概要について説明しました。また、これに呼応するように、参加者からも新政府の姿勢を前向きに評価する発言が相次ぎました。

 熱帯林の保全は決して一朝一夕に実現できるものではありません。着実に一段一段進めて行く必要があります。アマゾンと並び「地球の肺」と呼ばれるコンゴ盆地では、政権交代という長いトンネルを通り抜け、新政府と国際社会が協力しつつ本格的に取り組みを進めるための土台作りが、今まさに始まろうとしています。(つづく)


大仲幸作(おおなか・こうさく)1999年に農林水産省入省。北海道森林管理局、在ケニア日本大使館、農水省国際経済課、マラウイ共和国環境省、林野庁海外林業協力室などを経て、2018年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザー(JICA専門家)としてコンゴ民主共和国環境省に勤務。

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