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荒川洋治・評 『一杯のおいしい紅茶 ジョージ・オーウェルのエッセイ』=ジョージ・オーウェル著、小野寺健・編訳

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『一杯のおいしい紅茶 ジョージ・オーウェルのエッセイ』
『一杯のおいしい紅茶 ジョージ・オーウェルのエッセイ』

 (中公文庫・924円)

経験と未来を端的に書く

 イギリスの作家、批評家ジョージ・オーウェル(一九〇三~一九五〇)は、『動物農場』『一九八四年』などの名作の他に、生活、自然、作家活動を記録する数多くのエッセイを書いた。希代の文学者の素顔が伝わる一冊。全三七編による新編。文庫は初。

 「一杯のおいしい紅茶」は紅茶の選び方、ポットでいれること、濃さが肝心、紅茶に入れるミルクから乳脂分を取り除くなど、一一項目。こまかく親切なので楽しい。世界最低といわれるイギリス料理を「弁護」。上等のイギリス料理には「個人の家庭以外ではまずお目にかかれない」とか。「暖炉の火」もいい。暖炉の第一の長所は「部屋の一隅しか暖まらないので、否応(いやおう)なしにみんなが仲良く一箇所に集まってしまう」点にある。「火というのは、二分と同じ形をしてはいない」。子どものときに火を知るのはとても大切なことだと。未来に向けた鋭い指摘だ。さまざまなものをまじえながらも、端的に書く。エッセイの極致というべきだろう。「ガラクタ屋」。いつ行っても、並ぶ品物が同じで、ここで何か買ったこともないのに、「その辺へ行ったときには、かならずちゃんと寄って丹念に眺めないと気がすまないのである」。そんな店もあるというのだ。身近なものをめぐ…

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