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中西寛(ひろし)・京都大教授
アメリカ大統領選の投開票日が近づいている。しかし今回の大統領選の意義は次期大統領の選択にとどまらない。今年の大統領選はアメリカが何十年ぶりかの憲法的危機を迎える契機となるかもしれないのだ。
すでに先月行われた両候補による1回目のディベートは、60年前にケネディとニクソンが争った時に確立された、生放送で候補者の資質を有権者が判断するという慣行の意義がほぼ失われたことを示した。2人の間で対話はおろか討論と呼べる時間もほとんどなく、両者は自らの支持層に向けた発言を繰り返すだけだった。
今回の場合、そもそも有権者の9割はいずれの候補者に投票するかほぼ決めていると言われているし、ケーブルテレビやSNSで自分の政治的嗜好(しこう)に合った情報がいくらでも流れてくる。もはやディベートの役割は討論ではなく、自らの支持層が投票所に向かうよう忠誠心を高めることにしかない。だから討論をしない候補者の姿勢は選挙戦術としては合理的だろう。しかし世界の目にはアメリカ民主主義が陥った機能不全の証左と…
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