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小説「恋ふらむ鳥は」

飛鳥時代の歌人・額田王を主人公に、日本の礎が築かれた変革期の時代を描きます。作・澤田瞳子さん、画・村田涼平さん。

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小説「恋ふらむ鳥は」

/156 澤田瞳子 画 村田涼平

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「ふうむ。こうやって眺めると、やはり宮室を置くにふさわしい地は一か所しかないなあ」

「この錦織(にしごり)とやら呼ばれている郷でございますな。ただそれとて、少々山を削って平地を増やさねば、東の垣根が波打ち際にひっかかってしまいます。早速、人をやり、作事を始めさせましょう」

 葛城(かつらぎの)王子(みこ)と中臣(なかとみの)鎌足(かまたり)は完成した地図を覗(のぞ)き込んで、遷都の計画に忙しい。それとなく額田(ぬかた)が告げた西の山嶺(さんれい)の峻険(しゅんけん)さ、日脚の短さにも、さして関心を抱く風ではなかった。

 吹き入る風が冷たい時、炭櫃(すびつ)の火を搔(か)き立てて必死に部屋を暖めるのは、結局、女だ。干した衣が日当たりの悪さゆえに生乾きとなって困り果てるのも、黴(かび)が生えた米を蓆(むしろ)に広げて乾かすのも、男には――ましてや葛城や鎌足のような者には、縁なき仕事だろう。

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