宮本輝さん(作家) 市井の人々の輝ける生 小説『灯台からの響き』刊行
毎日新聞
2021/1/4 東京夕刊
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「僕、灯台が好きなんですよ」。そう語る作家、宮本輝さん(73)の新作『灯台からの響き』(集英社)は、急逝した妻に導かれるように灯台巡りの旅に出た初老の男が、人生を見つめ直す物語だ。家族や友人との心の交流を重層的に紡ぎ、市井に生きる人々の「隠された歴史」を優しく照らし出す。
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主人公は東京・板橋の商店街で父の代から続く中華そば屋を営む牧野康平。一緒に店を切り盛りしていた妻の蘭子に先立たれ、長い間休業していた。生きる気力すら失っていた62歳の康平はある時、妻の秘められた過去に触れ、その謎を追って各地の灯台を巡る。
本作は、宮本さんが37年にわたって執筆した自伝的小説「流転の海」シリーズ全9巻の完結後、初めて取り組んだ物語だ。「一つの区切りが一応ついて、さあこれから新しいものをという気持ちでした。ちょっと肩の力を抜いて、今まで書きたかった灯台の話を書いてみたんです」。犬吠埼(千葉)や伊良湖岬(愛知)など、物語に登場する灯台にはすべて足を運んだ。
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