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私のことだま漂流記

山田詠美さんが、さまざまな人や言葉との出合いを軸に、作家としての歩みを振り返ります。挿絵はイラストレーターの黒田征太郎さんです。

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私のことだま漂流記

/8 山田詠美 黒田征太郎・え

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前回までのあらすじ

 山田詠美さんの母は、言霊の力を信じ、言葉遣いに気を付けるよう子供たちをしつけた。出掛ける間際に姉妹げんかをすると、特に強い口調で叱責されたという。家族の誰よりも家を愛し、家族で過ごす時間と空間を大切にしていた。そんな母の姿に、山田さんはどこか危うさも感じていた。

「本の行商さん」

 初めて読んだ本は何かと問われれば、やはり、一般的な子供がそうだったように、絵本、そして、童話と答えるだろう。

 新美南吉の「ごん狐」や小川未明の「赤い蠟燭(ろうそく)と人魚」など。アンデルセンやグリムも好きだった。どれも、素朴なストーリーに、もの哀(がな)しさや恐ろしさが含まれていた。中には、性的なニュアンスが滲(にじ)むものもあった。それがたとえ子供向けにやさしく書き直されていたとしても、同じような背徳の気配は漂っていた。長く読み継がれる作品には、どうにも変えられない独特の匂いがある。

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