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――ぼくの大叔父は、早逝した無名の職人、というか、じつのところは職人の見習い程度の人でしかありませんでしたから。あの駒はたんに、ぼくにとっての個人的な記念の品という、ただそれだけのことなんです。
カマタさんはちょっと呆(あき)れたのかもしれないが、それを口に出すことはなく、<マンハッタン将棋クラブ>に問い合わせたうえで、折り返し電話すると約束してくれた。竜介は<ピルグリム・イン>の名前と電話番号を教えて電話を切った。
ところがその後、三十分経(た)っても一時間経っても、カマタさんからの電話はかかってこない。竜介はだんだん不安になってきたが、こうなってはもう彼の連絡を待つほかない。留守をしてしまうとそのあいだに電話が来るかもしれないから、外出するわけにもいかない。ベッドに寝転がってぼんやりしているうちに、竜介は服を着替えもしないまま、いつの間にかことんと眠りに落ちてしまったらしい。電話のベルが鳴ってはっと目覚め…
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