貧富の差が拡大? 賛否渦巻く東京都の太陽光パネル設置義務化

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住宅に設置された太陽光パネル=東京都稲城市で2022年12月18日午後2時41分、黒川晋史撮影
住宅に設置された太陽光パネル=東京都稲城市で2022年12月18日午後2時41分、黒川晋史撮影

 温室効果ガス削減を目指し、東京都は全国初となる新築戸建て住宅への太陽光パネル設置義務化を2025年4月に始める予定だ。22年12月の都議会で改正環境確保条例が成立し、準備を本格化させている。一般家庭向けの気候変動対策として期待する声がある一方、住宅購入者の負担増やパネルのリサイクルなど課題は多く、反対論も根強い。賛否それぞれの識者に話を聞いた。

「都市でもできる」示した意義

鈴木かずえ グリーンピース・ジャパン気候変動・エネルギー担当

 今は気候危機の時代に突入している。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、産業革命前と比べて地球の平均気温の上昇を1.5度に抑えても、サンゴ礁の7~9割が失われると報告している。地球温暖化の影響で「100年に1度」と言われる水害が毎年のように起こっていて、今後はもっと増える恐れがある。夏場の熱波も深刻だ。気候危機への対策は待ったなしの状況にある。

 2020年10月、菅義偉首相(当時)は50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現すると宣言した。さまざまな政策が動き出し、22年6月には、新築住宅に断熱性などの基準適合を義務づける改正建築物省エネ法が成立した。しかし、太陽光発電設備に関しては、「30年までに新築住宅の6割に設置する」と目標を定めたものの、義務化の話はなく、全く達成される見通しがなかった。本来は目標を掲げた国が達成の道筋をつけるべきだ。設置義務化という形で先駆けとなった東京都を高く評価している。

 今回の都の改正条例に基づいて新築住宅に太陽光パネルが設置されても、都内の二酸化炭素(CO2)の排出量は家庭部門の数%が削減されるに過ぎない。それでも「だから意味がないんだ」という話にはならない。自然エネルギーへの転換やCO2削減のために重要なのは、さまざまな取り組みを「積み重ねる」ことだ。

 できることを全てやらなければカーボンニュートラルは達成できない。CO2の最大の排出源は企業部門で、特に石炭火力発電や製鉄は排出量が多い。それらの産業構造を変えるには大きな政治力が必要で、すぐに変革するのは難しいだろう。しかし、太陽光パネルは買って取り付けさえすれば、即座に発電する。導入は「すぐできること」の一つだ。

 環境への負荷を軽減する以外にも、メリットはたくさんある。都の住宅購入者向けの補助金制度を使えば、パネル設置にかかる費用も6年ほどで元が取れるうえ、売電収入も得られる。たとえ住民が温暖化について考えず、コスト面だけが動機になっていても、普通に生活を送る中で結果的にCO2を減らせる。環境保護を考えていない人を含め、CO2を削減できる制度だ。パネルの国内生産を促進し、国内で発電すれば、化石燃料の輸入が減り、エネルギーの安全保障面でもプラスになる。

 一方、パネル材料の海外の生産現場で人権侵害があるとされ、利用は人権侵害に加担するとの指摘もある。パネルに限らず、製品や素材がどこから来たかに意識を向けることも忘れてはならない。国内製造やリサイクル、リユースの仕組みづくりを国は進めてほしいし、都が先にやってもいい。

 大都市にはダムがなく、大規模な風力発電の設置も難しい。その中で住宅に着目し「都市にもできることがある」と示せたことは意義がある。国や他の自治体、義務化対象外のハウスメーカーなど、各方面への波及効果を期待したい。【聞き手・黒川晋史】

低所得世帯には負担増

山本隆三・常葉大名誉教授

 太陽光パネルの設置義務化は、新築一戸建てを購入できる世帯にはメリットがあるが、購入できない世帯や、とりわけ低所得世帯にとっては恩恵がないどころか、結果的に負担増となり、貧富の差が拡大するなど課題は多い。

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