犯罪がらみ“ノワール”なボドゲ

2023/3/25 2390文字

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　比較的治安が良いとされてきた日本ですが、2022年には特殊詐欺が8年ぶりに増加に転じ、フィリピンから闇サイトを通じて強盗事件が仕掛けられる新たな凶悪犯罪も登場。雲は厚くなるばかりです。悪事を体験するのは盤上だけにしてもらいたいもの。今回は犯罪がらみのノワールな2作品を紹介します。

「ポンジスキーム」で投資詐欺

　イタリア移民の米国人、チャールズ・ポンジ（1882～1949年）は第一次世界大戦後の経済混乱に乗じ、投資詐欺をたくらみます。国際返信切手券を利用して為替レートで利ざやを稼げば「3カ月で倍になる」と吹聴。多数の出資者を集め、実際には投資を行わず集めた出資金を配当金に充てていました。1年後に配当支払いが新たな出資を上回り破綻。現代でもよくよくみられる投資詐欺の枠組みは「ポンジスキーム」として有名になりました。

　同名のボードゲームも、プレーヤーは詐欺師となりさまざまな産業に投資すると称して資金を集めます。プレーヤーのうち1人が破綻した時点でゲームは終了し、一番多く資産を保有していれば勝利。株の大暴落という運要素も絡み、破産するのか逃げ切れるのか。他の作品では味わえない負のドキドキ感に浸れます。

配当出すため泥沼に

資金カードを受け取ると上部に書かれている資金がもらえる。下部に書かれているのが配当周期と額。このカードなら45ドルもらえるが5ラウンドごとに102ドル配当しなければならない

配当を管理する配当周期ディスク。ラウンド後半に1目盛り時計回りに回し、赤い矢印が示すカードの配当を支払う。配当を払ってもカードが残り続けるのがつらい

　まずは資金調達。スタートプレーヤーから順にマーケットにある資金カードを取り、額面の資金と4業種いずれかの産業タイルを獲得します。資金カードの下部には配当までの周期と配当金が記されています。例えば9ドルが得られるカードは5ラウンド後に8ドルの配当を支払う必要が。額は段々上昇していき、51ドル得られる資金カードは4ラウンド後に95ドル配当▽67ドルなら3ラウンド後118ドル配当▽最高額の80ドルなら3ラウンド後144ドル配当――といった具合。資金カードは配当周期ディスクに配置して管理。ラウンド後半に1目盛り時計回りに回して赤い矢印が示すカードが現ラウンドの配当になります。払えなければゲームは即座に終了。支払っても資金カードはディスクに残り続け、51ドルカードなら再び4ラウンド後に配当をしなければならないのがつらいところです。

革財布の中身に一喜一憂

同業種の産業タイルを持つプレーヤーに対して秘密取引を持ちかけることができる。革の財布に希望買い取り金額を忍ばせて渡す

　資金調達後は秘密取引。出資金以外でお金を稼げる唯一のアクションです。スタートプレーヤーから順に、同じ産業タイルを持っているプレーヤーを指定して取引を持ちかけます。タイルの買収希望額分の紙幣をこっそり革財布に入れて渡します。取引を持ちかけられたプレーヤーは2択。金額に納得できれば紙幣をもらって産業タイルを渡す、納得できなければ同額の紙幣を更に財布に入れて突き返し取引を持ちかけた方から逆に産業タイルをもらいます。

　各プレーヤーの手持ち資金はついたてで隠しておくのですが、秘密取引の金額などで段々分かってきます。資金繰りの苦しいプレーヤーは足元を見られて不利な取引になりがちなのも現実と同じ。ラウンドが進むごとに雪だるま式に配当金が増えていき、いつかは必ず破綻。秘密取引を使って資金を得て延命したい。しかし、産業タイルの数が勝利に直結するので安売りはしたくない。周りの動向を読みながら詐欺師の快感と苦しさをぜひ体験してください。

強盗はつらいよ「エスケープ・プラン」

街が完全に封鎖される3日後までに、強盗で得た金を持ち出そうと奮闘する「エスケープ・プラン」

セーフハウスに逃げ込んだり、地元のギャングの力を借りたりして隠し資金を集めて脱出を図る

　プレーヤーたちは銀行強盗を成功させ、奪った現金を隠したり企業に投資したり。悠々自適の日々を送っていましたが、いよいよ捜査の手が伸びてきました。「もうおまえたちとはやっていけない」。仲たがいしたプレーヤーたちは、警察の目をかいくぐり隠していた現金を回収してそれぞれ街からの脱出を図ります。期限は3日間。「エスケープ・プラン」では、無事に脱出できたプレーヤーの中で一番多くの現金を回収した者が勝利します。

プレーヤーたちは中央の病院からスタート。街には3種類の警官が巡回し、逃走に失敗すると見つかって負傷する

　プレーヤーたちはボード中央にある病院からスタート。六角形の都市タイルが置かれるたびに街の全容や警察の配置が分かってきます。基本的に1日当たり午前、午後、夕方の3手番。つまりわずか9手番を使って複数の企業、セーフハウスを巡り街から脱出しなくてはなりません。

友人や地元ギャングの力を借りて

指名手配レベルによって各ラウンド終了時に指名手配トラックが上昇する。利点もあるが警察の注意を引き付けるほか最終得点計算で減点もある

　移動経路には警察官がウヨウヨ。すなわち黒駒の特殊部隊（SWAT）▽赤駒の連邦警察▽青駒の郡警察――の3種類。移動の際には、出発地点の都市タイルや通過したタイルにいる警察官から逃走を図りますが、失敗すると被弾。重傷となると手錠カードが個人ボードに配置され不利な展開になります。4回被弾するだけで手錠を掛けられるので一見無理だとしか思えない作りなのですが、抜け道はいくつも用意されています。店で変装道具を買ったり地元のギャングや外部の友人の力を頼ったり。病院に行って治療してもらうこともできますが、あまり人目を引くことをすると指名手配レベルが上昇。プレーヤー駒の近くに警察駒が次々と押し寄せてくるのです。

スタート時に配布される「エスケープ・プラン」カード。どこにどれだけの資金を隠したかが記されている。＄マークは逃走資金が即座に得られる場所

　脱出口は3カ所あるのですが、1日の最初に2枚ずつめくられるパトロールカードによって徐々に閉鎖され、3日目には1カ所のみが開放されています。最初に脱出したプレーヤーは無料ですが、後からだと手数料（賄賂？）が必要。「もう1カ所の現金を回収してから」と欲をかくと手数料が払えずに御用となってゲームから脱落することも。どこにどれだけ現金を隠しているかはプレーヤーごとに異なり、逃走資金もついたてに隠されているので最後まで誰が勝っているか分からないので気が抜けません。ルール量がかなり多い重量級ですが、テーマがテーマだけにプレー中の会話が盛り上がる楽しいピカレスク作品です。【野地哲郎】＝次回は4月8日掲載