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(1)川上未映子『黄色い家』(中央公論新社)
(2)森泉岳土『仄世界』(青土社)
(3)菅原百合絵『たましひの薄衣』(書肆侃侃房)
掘り崩される自他の境界
(1)高校生の伊藤花は、20歳年長の黄美子と同年代の少女2人とともにスナックを経営している。彼女たちは疑似家族のように支え合いながら暮らしていたが、スナックが火災に見舞われてから事態は一変。花は「家」を守るため犯罪に手を染めるようになるが……。自他の境界を掘り崩す共同体や金銭の魔性は、この家だけにとどまるものではない。「肝心なのは金をもっているのが誰なのか、つまり、金のありかなのではないだろうか」という言葉が強く響く。
(2)消失と忘却を巡る3編の漫画が収録されている。「有紀と有紀」は、他の人からは見えないもう一つの顔を持つ女性の話で、その顔を奪われたことをきっかけに、他人から忘れられてしまう。「そこにいた」は、主人公の女性が、数年前に亡くした妹の代わりとして買った手の模型を失(な)くしたことから、関係する人々に異変が生じる。脆(もろ)く隈取(くまど)られた頼もしい孤独が、鉛筆による淡く雄弁なタッチで描かれるこ…
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