
社会保障のあるべき姿を専門家が論じます。
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私の社会保障論 ごちゃ混ぜの効用=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
2023/1/26 02:00 948文字多様性(ダイバーシティー)という言葉を聞く機会が増えた。「ごちゃ混ぜ」と呼ぶ人もいる。性別、年齢、障がいの有無、人種、性的指向から、キャリアや立場まで幅広い。「誰一人取り残さない」社会をめざす国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」や地域共生社会などもある。企業でも、多様な商品の少量生産にシフトし
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少数者が活躍する環境=関西広域連合有識者委員・渥美由喜
2022/12/29 02:00 922文字「女性活躍」という言葉を見るたび、「いつ次の段階に進むのか」とじれったくなる。 10年前、コンサルティングした「発達障がい者の就労支援」に取り組むNPOの事例を紹介する。発達障がい者は、ネガティブ要素の裏に才能が隠れているケースが多い。ある女性は、極度の潔癖症でコミュニケーションが苦手なため、十数
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私の社会保障論 「五方良し」は可能か=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
2022/12/8 02:01 931文字多くの人が一度は聞いたことがある「三方良し」。「売り手良し」に加えて「買い手良し」、さらには「世間良し」の三つがそろってこそ、持続可能になるという。では社会保障の持続可能性を高めると期待されるPFS(成果連動型民間委託契約方式、Pay For Success)を聞いたことがあるだろうか。 PFSで
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私の社会保障論 中立的な指標とは=関西広域連合有識者委員・渥美由喜
2022/11/10 02:01 923文字「男女の賃金格差是正」という政府方針の下、従業員301人以上の企業は、男女別、かつ正規・非正規別の賃金差の開示が義務付けられた。女性活躍の状況を評価する指標の一つになる。 「男性と比べ女性の平均賃金の水準が低い状況」は問題で、マクロ指標(各産業の賃金総額)は是正すべきだ。しかし、各企業で賃金格差の
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私の社会保障論 「エビデンス」生む調査=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
2022/10/20 02:00 930文字一人の力は小さくても、力を合わせれば、時に1+1が3とか4の大きな力を発揮する。それと同じように、調査への回答など数字を集めただけの「データ」から、生活や政策に役立つ「エビデンス」(科学的根拠)を生み出せる。 私たちが取り組む日本老年学的評価研究(JAGES)では、64市町村の高齢者25万人以上の
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私の社会保障論 少数者をいかす社会=関西広域連合有識者委員・渥美由喜
2022/9/22 02:01 943文字日本より数十年先を行く欧米諸国でもかつて、少数者をめぐり多くの失敗があった。例えば性的指向を転換させる「転向療法」を三十数年で計70万人以上に施した国際団体は、創始者・指導者がその有害性を認め、被害者(多数の自殺者を含む)に謝罪し、10年前に解散した。少数者の特性を矯正せず、特性を認めていかし、活
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私の社会保障論 DX時代の健康増進=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
2022/9/1 02:00 922文字コロナウイルス感染症など病気になってから事後的に治療するのと、病気にかからない、あるいは重症化しないよう事前に努力する予防とどっちが良いか。問われれば、多くの人が「予防」と答えるだろう。効果的、効率的な予防策が確立すれば、社会にとっても、社会保障給付費を抑制できる。問題は、どんな行動が予防に有効か
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私の社会保障論 少数者への狭量な姿勢=関西広域連合有識者委員・渥美由喜
2022/8/4 02:01 946文字国会議員が参加する懇談会で「同性愛は精神の障害、または依存症」として治療回復について記した冊子が配布された問題で、政党に内容の否定を求める署名が5万超も集まった。 10年ほど前の騒ぎを思い出した。元首相らが顧問を務めた超党派の議員連盟が「伝統的な子育てで発達障害は予防できる」をテーマに勉強会を開い
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私の社会保障論 石の上にも20年=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
2022/7/14 02:00 939文字「石の上にも3年」ということわざがある。「たとえ冷たい石の上でも、3年間も座り続ければ温かくなってくる」との意味だという。この言葉を知った子どもの頃は「お尻も痛いし、退屈そう」「3年も耐えられない」と思った。 私にとって、「石の上」とは「健康格差社会」に関する研究である。20年前の日本には、こんな
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私の社会保障論 「VS東京」地方の知恵=関西広域連合有識者委員・渥美由喜
2022/6/16 02:00 940文字民間では、他社との比較広告は珍しくない。一方、公的機関ではあまり見ない。しかし、海外には成功事例がある。その筆頭が英国のバーミンガムだ。30年前から、良好な子育て環境を前面に出して「ロンドンからバーミンガムへ」キャンペーンを展開した結果、若年人口が増えて地域活性化に成功している。20年前にロンドン
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私の社会保障論 健康長寿の「森」つくる=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
2022/5/26 02:01 928文字森にはたくさんの木が集まっている。だから木を見れば森がわかると思うのは勘違いである。なぜなら森は木の集合体というだけでないからだ。足元の草花に集まる虫や木の実などを鳥や小動物が食べて運んだり、枯れ葉などを微生物が分解したりして、森という生態系のシステムは成り立っている。だから「木を見て森を見ない」
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私の社会保障論 一家で移住=関西広域連合有識者委員・渥美由喜
2022/4/28 02:02 917文字この4月に首都圏から転出した。私は東京生まれ東京育ちで人並みの郷土愛はある。他方で、人口問題の研究者として、東京一極集中の弊害と地方活性化の必要性を痛感してきた。 2人の息子をはじめ、子ども会に来てくれる子たちに自然の中での生活体験を、とこれまで千葉県の九十九里の海近くと栃木県の那須の山近くに自然
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私の社会保障論 孤独・孤立のゼロ次予防=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
2022/4/7 02:02 931文字一人暮らし、一人旅は昔からあったが、一人カラオケ、さらにここ数年で一人焼き肉を楽しめる店も増えた。その背景に、50歳時の未婚率が、男性の4人に1人、女性の6人に1人、さらに独居高齢者が700万人以上に増え、所帯持ちも時には1人の方が気楽なことがある。 一人でも、気楽に不安なく生活しているのなら問題
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私の社会保障論 「大変だ合戦」の放棄=東レ経営研究所特別研究員・渥美由喜
2022/3/24 02:00 942文字16年前、会社で最初の男性育休取得者になった。課長で4カ月、2回目は部長で半年休んだ。「パートナーは幸せですね」と言われて「実は離婚寸前でした」と返すとギョッとされる。 非は私にある。当時、父の統合失調が悪化し、実家に日参した。父は愛らしい孫たちの姿に目を細めたが、私には攻撃的。猜疑心(さいぎしん
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私の社会保障論 第三の居場所=白十字訪問看護ステーション統括所長・秋山正子
2022/3/10 02:03 937文字英スコットランドの造園家、マギー・ジェンクスは、再発した乳がんの診察で自分の余命を聞いた際、医師から「3、4カ月ですね」とあっさり告げられて言葉を失った。治療できなくてもいろいろなことを試みたいと思ったが、言葉が出てこない。「次の患者が待っていますから」と言われ、廊下に出たという。 病状を突然告げ
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私の社会保障論 疫学の歴史と展望=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
2022/2/17 02:00 931文字新型コロナ感染症の流行で、その価値を再発見したものがある。マスク、手洗い、そして対面でコミュニケーションし、共に笑う喜びだ。さらに保健所、公衆衛生、そしてこれらの重要性を明らかにしてきた疫学である。 1月末に開催された日本疫学会学術総会の会長講演で疫学の歴史や展望を考えた。疫学は疫(伝染・流行)病
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私の社会保障論 自己満イクメン=東レ経営研究所特別研究員・渥美由喜
2022/2/3 02:01 953文字この秋から、父親版産休(産後2カ月以内の父親社員に企業が休暇制度を周知する義務を負う)の仕組みが始まる。修羅場は経験しないと分からないので、良い取り組みだ。しかし、「やらされ感」や、特別なことをしたと勘違いする「自己満イクメン」が増えないように願う。 自己アピールでイクメンを自称する輩(やから)が
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私の社会保障論 暮らしの保健室=白十字訪問看護ステーション統括所長・秋山正子
2022/1/20 02:02 887文字日々の暮らしで、役所などに聞くほどではないけれど、気軽に誰かに相談したい時がある。そんな施設が東京都新宿区戸山にある。「暮らしの保健室」だ。高齢化が進む巨大団地の一角にあり、地域のよろず相談所として2011年7月に開所した。 相談は無料で、予約もいらない。地域の医療や介護の事情を熟知した相談員(主
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私の社会保障論 つながり確保に工夫を=千葉大予防医学センター教授・近藤克則
2021/12/30 02:00 893文字あと少しで新型コロナウイルス感染症の流行も終わると期待していたら、今度はオミクロン株がやってきた。従来株と比べて重症化する割合が低いと聞いてあなどってはいけない。感染者1人が平均してうつす人数「実効再生産数」がデルタ株の約4倍に上るという報告もある。入院する人の割合がデルタ株の仮に4分の1だとして
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私の社会保障論 野球と多様性=東レ経営研究所特別研究員・渥美由喜
2021/12/16 02:00 951文字30年間ダイバーシティー(多様性・多面性を生かす社会づくり)の研究をしてきた。最初の15年は上司から「役に立たない研究は認めない」と禁止命令を受けた。終業後に研究するしかないので、定時に帰宅し合コンの誘いも断った。 当時、ダイバーシティー=女性活躍と思われていたので「何で男性なのに?」とよく聞かれ
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