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踏み跡にたたずんで

芥川賞作家、小野正嗣さんの小説「踏み跡にたたずんで」がスタート。月1回、原則として第4土曜日に掲載します。

  • 夜空に吸い込まれる=小野正嗣

     フランスの地方都市で詩人の家に居候していたときのことだ。 12月のある日の夕方、詩人とともに顔なじみの書店を訪れた。 詩人の義姉が始めた書店だった。チェーンに…

  • 防災行政無線=小野正嗣

     その人は地域ではよく知られた人だった。 とはいえ、登下校する児童たち、目の前の風景がまったく目に入っていないかのように頭のなかの情景を進んでいく子供たちには、…

  • 泥に泥に泥に泥に=小野正嗣

     泥に泥に泥に泥に気をつけて、とその人は言ったのだと彼女は断言した。 「泥に泥に泥に泥に」? 4度も? すると彼女の目がいたずらっ子のように輝く。 4度もくり返…

  • 風の運ぶもの=小野正嗣

     地面は凸凹で、雨が降ったらしく、ぬかるみ、ところどころに茶色い水たまりもあった。 見渡すかぎりその空き地には、いま目の前にあるキャンピングカーも含めて、バンや…

  • 光の環=小野正嗣

     出ておいで、と声がした。 そこに別の声が続いた。 怖くないよ。何もしないから、何も痛くないから、出ておいで。 それを聞いて、「痛くない? なんでわざわざそんな…

  • 雲の狩人=小野正嗣

     罠(わな)をしかけているのだ、と長身の老人は言った。言ったように聞こえた。 そばにいた小柄な中年女性が、やめなさい、と訴えかけるまなざしで老人を見つめた。 ふ…

  • 雲か煙か=小野正嗣

     島に着いて2週間が過ぎようとしていた。フライトはキャンセルされ、別の便を予約しようとすると、運行がいつ再開されるかわからないと言われた。 テレビの教養番組のた…

  • 隙間=小野正嗣

     夜中に目が覚めて、一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなる。自分の家ではないことだけは確かなのに、思考はそれ以上進まず、前進を、いや後退でもいいが、とにかく動…

  • 襞=小野正嗣

     ずいぶん早く目が醒(さ)める。小鳥のさえずりやときどき道を行き交うバイクや車のエンジン音、どこかから大声で呼びかけたり笑ったりする声が聞こえてきて、さすがに南…

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