読者コラム「窓」は読者から寄せられた日々の喜怒哀楽や思いを掲載します。
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あんぱんと私 倉敷市 大坪光恵・75歳 /岡山
2024/4/24 05:15 550文字生家が和菓子屋だった私は、幼いころから小豆の煮える匂いで目が覚めた。幸せの匂いだ。和菓子には四季がある。うぐいす餅、桜餅、おはぎ、柏餅(かしわもち)。あんこが大好きな私が好きなパンはあんぱん。もちろん二人の子どもたちも。 長男が千葉の大学に進学した春、あんぱん50個を抱えて寝台特急に乗った。前日、
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訪問者 岡山市中区 佐藤栄子・81歳 /岡山
2024/4/10 05:15 554文字作業服姿の中年の方が来られて「電線からの引き込み線が電話線と近すぎるので少し移動させてほしい」と言われた。何のことやら合点がいかないが、家の外のことなので「どうぞ」と返事をすると、「工事は明日します。15分ほど停電します」と言って帰られた。 昼食の準備をしながら考えた。先ほどの方は本当に電気工事の
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昭和の目で「書く」 岡山市中区 さとうゆきえ・88歳 /岡山
2024/3/28 05:07 535文字長年ギャラリーを営み、若い作家さんたちに「どなたでも最初から上手な人はいません。だんだんに成長したらいいんですよ。楽しんで作りましょう。見る人、使う人にも楽しんでいただきましょう」と励まし続けてきた私。 若者たちが成長する様子を眺めながら、ふと、私自身も何か、作品らしきものを自分の手でつくってみた
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桜吹雪を待つ 岡山県赤磐市 国近早苗・65歳 /岡山
2024/3/13 05:19 601文字春一番が吹いたと発表され、桜の開花予想が発表されると、家にいる時間がもったいなく感じる。柔らかな日差しを肌で感じ、固いつぼみを付けた桜並木へと足が向く。一言では表わせない、桜をめでる気持ちが年々増してくる。 小学生の頃、実家では花好きの母がいろいろな草花を植えていた。スイセンやチューリップ、アヤメ
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人生二倍 岡山市北区 内山茂・81歳 /岡山
2024/2/28 05:12 598文字若輩の頃、ある先輩から「人生二倍論」という話を聞いたことがある。 平素から、精力的に効率的な生活を心がければ、意識の低い漫然とした日常に比べ濃い充実した人生になる。短い一生を悔いなく生きる術(すべ)だという論旨だった。 長く生きてきた我が身を振り返ると、前後に画された二つの人生になったと実感する。
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歯の賞状 笠岡市 平井千秋・75歳 /岡山
2024/2/14 05:04 583文字「よく手入れをして虫歯が1本もありません」 小学校1年生の終業式、S先生は目元を緩め、A5サイズの賞状にベージュの鉛筆を1本添え、両手で手渡してくれた。 「歯の賞状?」と、けげんそうな声がする。図画や習字の、金の縁飾りのついたものに比べ、肩身が狭かった。 母に見せると「まあ、すてきじゃない。この機
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あたりまえに感謝 笠岡市 水川洋・61歳 /岡山
2024/1/24 05:12 547文字初詣からの帰り道、けたたましくスマホが鳴った。同時に、カーナビのテレビからは緊急地震速報が流れた。一瞬、南海トラフ? と不安になったが、震源は北陸地方だった。 この元日夕方に発生した能登半島地震は、多くの方の命を奪い、余震が続き被害は拡大している。翌日の2日には、羽田空港で飛行機同士が衝突し炎上す
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メッセージ 岡山市北区 吉井有希恵・74歳 /岡山
2024/1/10 05:04 596文字あるCMのメッセージ「世界は誰かの仕事でできている」。働く人たちへの最高のエールだけど、なぜか、何も仕事をしていない高齢の私まで励まされている。 2人の娘たちが時々、孫たちを連れて我が家で合流する。毎日仕事と家事で大変だろうと思うと、料理担当は自然に私になる。子どもの舌は結構敏感なので、もりもり食
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霧の朝 津山市 餅原ひろ子・74歳 /岡山
2023/12/27 05:07 469文字深い霧の立ち込める早朝、公園の散歩に出かける。視界の悪かった公園もだんだんと霧が引き、芝生やピンクの山茶花(さざんか)もはっきりしてくる。1時間の散歩を終えるころには、クモの巣が朝日に輝いている。 霧の朝は、クモの巣がいつもより目につく。丈高い桜やプラタナスにぶら下がっている巣の中央に、獲物を狙っ
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今年の漢字一字 岡山県倉敷市 高尾通興・76歳 /岡山
2023/12/13 05:04 639文字「今年の漢字一字は何」と聞かれた。迷うことなく「暑」だ。 「暑いな」が今夏のあいさつの共通語。各地で記録的な猛暑となり、高温被害は多方面に及んだ。野菜もその一つである。 人間は暑ければ冷房でしのげる。だが露地物の野菜だとそうはいかない。私のような家庭菜園愛好家は酷暑に対してなすすべもなく、壊滅的な
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秋茜 笠岡市 木村みつこ・49歳 /岡山
2023/11/22 05:16 567文字趣味で茶道を習い始めて2年ほどになる。最近、仲の良い友人が稽古(けいこ)に参加するようになったので、楽しみが増えた。 友人は高校のころ茶道部に入っていたので、点前の基本の所作が美しい。長い間一人で稽古をしていた私にとっては、他の人の点前を見るのはとても勉強になる。 大人になって、お茶を習ってみたい
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図書館に行く 赤磐市 国近早苗・64歳 /岡山
2023/11/8 05:08 598文字桃の注文・発送などのアルバイトが一段落すると、秋の気配が感じられ始めた。 ふと、思いつき図書館へ行った。なぜか本のある空間が恋しくなった。 子どものころから本が大好きだった。「世界少年少女名作集」は寝る間も惜しんで夢中で読んだ。シャーロック・ホームズや明智小五郎にもはまった。偉人の伝記を読むことで
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ゆく川の流れ 岡山市北区 友直茂子・76歳 /岡山
2023/10/25 05:06 623文字無常観について意識したのは、高校1年か2年の古文の時間だった。なぜ古典文学を強制的に学ばされるのか疑問だったが、大学受験のためだからと割り切った。 それの一つが、鴨長明の『方丈記』である。「ゆく河の流れは絶えずして…… かつ消えかつ結びて久しくとどまることなし……」。彼が58歳で書き始めた随筆であ
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無言のメッセージ 岡山県倉敷市 崔慶子・76歳 /岡山
2023/10/11 05:10 484文字今年の9月に昨年100歳の天寿を全うした母の一周忌を迎えた。 父が韓国全羅南道順天の崔氏の何十代目の長男ということで、母は跡継ぎの男の子を生まねばならなかった。 だが、出産したのは女の子ばかり。ようやく5人目で男子を生んだのだが、婚家では肩身の狭い思いをしたようだ。 韓国にも「針のむしろ」と同じ「
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風に吹かれて 倉敷市 平松眞弓・75歳 /岡山
2023/9/27 05:13 632文字「あのー、これをおさがしでしたか?」 バス停に立っている私に声をかけたのは若い女性だった。手元を見ると、白い紙が……。それは先ほど買い物をしたスーパーのレシートだった。 数分前、店の前の交差点で、信号が変わる直前、突風にあおられ、手に持っていたレシートが飛んだ。拾おうと手を出したが、コロ、コロと道
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猿だんご 笠岡市 古川美智子・86歳 /岡山
2023/9/13 05:09 572文字東京に住む友達のKちゃんから「夫が夏の3カ月入院しているので、今なら会えるの。一泊二日で、熱海(静岡)で会えないかしら」と電話があった。 彼女の旦那は私の亡夫と中学の同期生。若い頃から夫婦で親しくしていた。今91歳だが、認知症の症状が出始め、近ごろでは下着と上着の区別もつかなくなったらしい。 岡山
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寺巡り 岡山県倉敷市 大森まさ子・78歳 /岡山
2023/8/23 05:10 590文字「大丈夫?」と息子が手をさし出す。 「えっ?」 息子と月一度、お寺巡りをしている。岡山は山門前に石段のある寺が多い。腰痛持ちで足もフラフラの私には、この石段は厄介である。石段を上らないと御利益はない、と言われているようだ。 手すりがあれば、それにしがみつきながら上る。息子は困ったものだと私を見てい
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賞味期限 鏡野町 矢内州子・72歳 /岡山
2023/8/9 05:10 569文字朝から雨が降っている日曜日の朝。朝食の準備に冷蔵庫を開けると、2週間ほど賞味期限の切れたかまぼこが出てきた。お弁当に入れようと購入したのだが、「あれ、使ったかな」と思い、すっかり忘れていた。 何ともないようでもあるが、2週間も練り物が賞味期限切れとなると、最近の気候不順、「危ない危ない」。火曜日の
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秘密の花園 岡山市北区 吉井有紀恵・74歳 /岡山
2023/7/26 05:07 508文字私の庭は秘密の花園だ。生垣と塀で囲って、通りからは見られない。夢の庭を思いながら世話をしてきた。 15年がたって、我ながらなかなかの花園ができた。ヤマボウシやハナミズキが木陰を作り、季節の花が風に揺れバラが咲き乱れる。誰にも見てもらえないのは残念だが、人目を気にすることなく庭いじりする楽しみは何物
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薪を割る 岡山市北区 内山茂・81歳 /岡山
2023/7/12 05:13 616文字老いて妻と二人だけの生活は、はやりに流されることもなく平凡な日々である。 わが家は寒い季節が良い。薪(まき)ストーブを燃やし、じか火の温かさと木の香りを楽しむ。鍋ややかんをかけ、パンやピザやスルメを焼く。おき火で肉や魚を焼いても匂いは煙突へ抜ける。意外な便利さも重宝だ。 厳しい冬を快適に過ごすには
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