
視覚に障害がある佐木理人記者が、誰もが不安を和らげ希望につながるような報道とは何かを考えます。
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いったい誰のもの!?=点字毎日記者・佐木理人
2023/9/1 02:04 817文字「そんな対応でいいのか?」。私のもやもやは晴れない。 12桁の個人番号(マイナンバー)などを記した通知カードの郵送が始まった2015年10月のことだ。1人暮らしの視覚障害者が、通知カードに書かれた番号の読み上げを買い物や家事をサポートしてくれるヘルパーに頼んだところ、断られたという。「プライバシー
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チャレンジの自由=点字毎日記者・佐木理人
2023/8/4 02:01 800文字耳から流れ込んでくる英文に意識を集中する。「終了」の合図に全身の力が一気に抜けた。 全盲の私は、大学生だった30年ほど前、英語能力測定テスト「TOEFL(トーフル)」にチャレンジした。海外の大学に留学するためだ。 当時のTOEFLは、点字では受けられず、口頭受検だった。問題文を読み上げ、回答を代筆
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すてきな二人=点字毎日記者・佐木理人
2023/7/7 02:04 813文字「視覚障害者の生活について調べてるんですが」。突然の電話に面食らった。全盲の私が大学生だった30年近く前のことだ。 当時は、関西の大学に通う視覚障害学生と点訳サークルで作る団体の会長をしていた。熱心な話しぶりに会う約束をした。 彼は翌年、私たちの団体に入り事務局長になった。彼が所属する大学の点訳サ
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変わる街の音=点字毎日記者・佐木理人
2023/6/2 02:05 818文字車のエンジン音が後ろから少しずつ近づいてくる。白杖(はくじょう)を使って路地を歩いていた全盲の私は、即座に道の脇に寄って立ち止まり、その車をやり過ごす。 私の横を通る時にドライバーが窓を開けて「ありがとうございます!」と声をかけてくれることがある。交差点で車と鉢合わせすると、私は手で合図して先に通
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細やかな情報保障=点字毎日記者・佐木理人
2023/5/12 02:01 823文字「窓ガラスを触ってみてください」。美術館のスタッフに勧められ、全盲の私は、1階壁面の大きな窓ガラスを順にそっと触っていく。円柱形の建物のデザインがよく分かった。 4月に休暇を取って妻と訪れた「金沢21世紀美術館」でのことだ。別の美術館の取材でお世話になった方たちが館内を案内してくださったので、仕掛
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「スマート」じゃない=点字毎日記者・佐木理人
2023/4/7 02:01 810文字全盲の私は、1993年に神戸の大学に入ってからキャンパスの近くで1人暮らしをした。長期の休みになると、電車を乗り継いで2時間近くかけて大阪の実家に帰った。 休み明けは、母が車に食料をいっぱい積んで神戸まで送ってくれた。白杖(はくじょう)を使って1人で歩くと多くの荷物が持てないため大変助かった。 あ
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笑顔を守る担い手=点字毎日記者・佐木理人
2023/3/3 02:01 814文字「差し上げられません」。全盲の私はその言葉に耳を疑った。 20年前、妻が妊娠し、点字の「母子健康手帳」があると知り、役所に電話した時のことだ。担当者によると、点字の母子手帳は数が少なく、貸し出しになるという。全盲の親の子育ては例外と言わんばかりだった。 視覚に障害のある親やその家族らで作る会がある
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冷たくて温かい記憶=点字毎日記者・佐木理人
2023/2/3 02:01 814文字「私の顔を触っていいですよ」。大学生だった全盲の私は、そう言われて驚いた。大学の近くで1人暮らしを始めるために募ったサポートのボランティアに手を挙げてくれた上級生の女性の言葉だ。 とっさに頭をよぎったのは、弱視だった小学生の時に見たテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」の一場面。ハイジと仲良しのペー
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新しい景色=点字毎日記者・佐木理人
2023/1/6 02:02 801文字「あけましておめでとう!」。家族4人でたくさんのおせち料理がつまったお重を囲む。 我が家の長年の元旦の風景だ。定番のカズノコや黒豆、栗きんとん、佐木家特製ミートローフなどが並ぶ。 どこにどの料理があるのか、全盲の私には分からない。おしゃべりに夢中な妻と2人の娘の様子をうかがいながら、好物のタイの子
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「機会がない」と言う前に=点字毎日記者・佐木理人
2022/12/2 02:01 826文字濃い鉛筆をしっかり握り、目をノートにくっつけるようにして一文字ずつ書いていく。視力が弱かった小学生の頃から私は昔話を創作するようになった。 目がほとんど見えなくなった中学生の頃も、中型テレビのような拡大読書器を使って書き続けた。 盲学校の高等部で出会ったのが、今年11月に「点字毎日文化賞」を受賞し
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逆転しそうな西高東低=点字毎日記者・佐木理人
2022/11/5 02:03 813文字駅の券売機の前で私は悩んだ。「目的の駅までいくらかかるんだろう?」と。 神戸の大学に進学した私は、他府県の大学で学ぶ友人に会うため、1人でいろいろな鉄道を使うようになった。困ったのが、切符の購入だ。運賃表を見て確認できないため、金額が分からない。 点字の運賃表や駅員を探す。どちらも見つからなければ
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改めるなら今=点字毎日記者・佐木理人
2022/10/7 02:01 803文字「夏風邪に思えても注意して」。社内で聞いた言葉が私の頭をよぎった。 8月の朝、体温を測ると38度弱だった。検査の結果、新型コロナウイルスに感染していた。 熱は39度近くまで上がったが、薬ですぐに下がった。疲れやすい状態はしばらく続いた。味覚と嗅覚が数日なくなり、目が見えない身としてはかなり焦った。
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最強の防災対策=点字毎日記者・佐木理人
2022/9/2 02:05 813文字「迷路をさまよっているみたい」。私は頭を抱えた。 視力が弱かった小学生の頃から苦手だったのは、地図の解読だ。色とりどりの図に細かな字や記号が書き込まれている。地図からはたくさんの知識が得られるはずなのに、私にはお手上げだった。 地図活用の重要性への認識は、東日本大震災以降に一層高まった。さまざまな
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たまには目をつぶって=点字毎日記者・佐木理人
2022/8/5 02:01 803文字イヤホンから流れてくる物語の朗読と音楽を眼科の病室で何度も聴いた。NHKラジオで1954年から続く「お話でてこい」のカセットテープだ。 40年余り前、幼稚園児だった私が目の手術で入院した時に父親が買ってくれた。「ねずみのよめいり」や「ヘンゼルとグレーテル」など。絵本が見えなくても、物語の世界が満喫
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使える自販機=点字毎日記者・佐木理人
2022/7/1 02:06 802文字手に持ったスマホを自販機に近づける。「ピ」。自販機から冷たい飲み物が出てきた。思わず口元が緩む。 最近、自販機で飲み物を買うことが増えた。コカ・コーラの自販機なら、スマホの音声読み上げ機能対応のアプリで何が売られているかが分かる。 大阪に住む弱視の竹田幸代さん(59)は、このアプリを動画投稿サイト
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声のバトン、どこまでも=点字毎日記者・佐木理人
2022/6/3 02:00 849文字「青ですよ!」。朝、白杖(はくじょう)を手に横断歩道で青信号を待つ私の耳に初老の男性の声が聞こえた。横断歩道の向かいで病院が開くのを待つ列からのようだ。「ありがとうございます!」。私は、安堵(あんど)して渡り始める。 後日、同じ列から女性の声が「青に変わりましたよ」と教えてくれた。私への声かけが、
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大阪から100年、二つの灯=点字毎日記者・佐木理人
2022/5/7 02:01 807文字左手の人さし指で小さな点が出た紙に触れる。指を左から右にゆっくり動かす。中学生の頃、目がほとんど見えなくなった私は、大阪にある「日本ライトハウス」で点字を習い始めた。視覚障害者のために日常生活動作の訓練や就労支援、点字図書の出版などに取り組む施設だ。 今年1月に亡くなった母に連れられ、週に1度通っ
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共に生きる教室、広がれ=点字毎日記者・佐木理人
2022/4/1 02:01 808文字「おはようございます!」。30人余りの中学生たちの熱気あふれる声が教室に響く。いよいよ授業開始。こちらの身も心も引き締まる。 私は大学4年生の夏、盲導犬を同伴し母校の中学校で英語の教育実習を受けた。指導役の先生が紙に書いてくれた英文を板書の代わりにマグネットで黒板に留めていく。教卓に置いた点字の名
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進化する道しるべ=点字毎日記者・佐木理人
2022/3/4 02:00 829文字「あれ? こんな所に壁ができている」。白杖(はくじょう)を使って通勤する私の足が止まる。大改修している大阪のオフィス街・梅田の地下街でのことだ。落ち着こうと、大きく深呼吸する。つえ先を慎重に右左に動かし、工事で張り替えられた点字ブロックを見つけ、会社にたどり着く。 一人で初めて訪れる取材先への道で
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そこに障害者はいるのか=点字毎日記者・佐木理人
2022/2/4 02:04 819文字大学入試シーズンになると、東京の盲学校高等部に通っていた頃のことを思い出す。点字の習得に必死だった。大学への進学を希望したため、読み書きの力の向上が欠かせなかったからだ。合格通知は、同世代に太刀打ちできたという手応えをもたらしてくれた。 私が高校生だった30年ほど前は、視覚障害者に対する大学の受験
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