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時空を越えたリヒテルとの共演 科学と音楽のアンサンブル

リヒテルの音楽を「人工知能」で再現

 20世紀を代表するピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテル(1915~97年)の“人工知能”と世界最高峰のオーケストラのメンバーからなるベルリン・フィル・シャルーンアンサンブルが、時空を越えて共演する。このような“実験”ともいえるコンサートが、5月19日に東京芸術大学奏楽堂で行われる「音舞の調べ~超越する時間と空間~」だ。「人工知能と人とのアンサンブル」はどのように実現されるのか、プロジェクトメンバーで作曲家の松下功・東京芸術大副学長とヤマハ株式会社の田邑(たむら)元一さんに伺った。【聞き手・西田佐保子】

    人工知能と人が奏でる音楽とは?

    リヒテルと“共演”するベルリン・フィル・シャルーンアンサンブル

     リヒテルとベルリン・フィル・シャルーンアンサンブル(以下、シャルーンアンサンブル)が共演したらどのような音楽が生まれるのだろうか?――この“夢の共演”を実現させるのが、ヤマハで研究開発中の「人工知能演奏システム」です。

     具体的には、リヒテルの生前の演奏録音をもとに、演奏表現をデータ化した音源を活用します。また、シャルーンアンサンブルの演奏する音と動き(ジェスチャー)をマイクとカメラで取得し、演奏位置を追いかけつつ、演奏のタイミングやテンポを予測して、息の合ったアンサンブルを実現します。

     リヒテルの個性は尊重し、忠実に当時の音を再現しつつも、演奏のテンポやタイミングなどはシャルーンアンサンブルと合わせます。お互いの音楽性を最大限に引き出し高めることで、リヒテルとシャルーンアンサンブルでしか味わえない“一期一会の”アンサンブルを堪能できるのです。音源の再生には、リヒテルが愛用していたヤマハのコンサートグランドピアノ「CF」の後継機種「CFX」に自動演奏機能を持たせた特別モデル「Disklavier(ディスクラビア)」を使用します。

    人と調和(アンサンブル)できる人工知能の開発を模索

    松下功さん(左)と田邑元一さん

     東京芸大は、文科省と科学技術振興機構の「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」に採択され、ヤマハは昨年10月から参画しています。今回のコンサートは、芸術と科学技術の融合により豊かな文化的コンテンツの開発を行うことを目指して行われます。

     ITを音楽の世界でどのように役立てていくべきか――。ある意味、楽器演奏は効率が悪いものの代表と言えます。多くの時間を費やして練習しなくてはならない。だからといって単純にIT(機械)の力を使って楽に演奏できればいいわけではありません。もしそうだとすれば、他人の演奏を聴くだけでいいし、自らが表現することを否定してしまいます。

     例えば、自動演奏機能はもともと初心者でも楽に演奏できるように開発されたと思います。しかし、左手を使えない、ペダルを踏めない人たちにとってはどうでしょう。自分のできなかったことが自由にできる、能力が拡張される。ITにより人間の可能性が広がる一例といえます。

     人工知能というと囲碁や将棋など人との“勝負”が話題になりますが、私たちが模索しているのは、人と人工知能が共存していく方法です。人工知能と複数の人間が呼吸を合わせ、微妙な音楽のゆれに反応し、応えていく。「人工知能演奏システム」は、このような人工知能と人との“音での対話”を目指しています。

    一流の音楽家に偏見はない

     リヒテルと共演するには超一流の演奏家でなくてはいけない。学生に演奏させたら、単なる「実験」で終わってしまう可能性がありました。そこで、世界最高峰のオーケストラのメンバーで、かつ非常に好奇心旺盛なシャルーンアンサンブルを共演者に選びました。

     今回演奏されるのは、シューベルトのピアノ五重奏曲「鱒」の第4楽章と第5楽章です。リヒテルの過去のライブ録音から作成した専用データを使用します。今年4月には、シャルーンアンサンブルの演奏の特徴などデータ収集のためにベルリンでリハーサルを行いました。

     実は、当時のライブ録音でコントラバスを演奏したヘルトナーゲルは、シャルーンアンサンブルのメンバーのひとり、ペーター・リーゲルバウアーの先生で、彼はこの録音時に使われたコントラバスで演奏しました。リヒテルとさまざまな曲を共演してきたヘルトナーゲルの思いも引き継がれた楽器で当時のリヒテルとアンサンブルする。まさに、時空を越えた演奏といえる感動的な時間でした。

     シャルーンアンサンブルのメンバーは、リヒテルに対し深い尊敬の念を持っています。人工知能だからといって否定することも、さげすむこともありません。「なるほど、ロシア人だからここをこんな風に弾くんだ」と感心しながら、対等に共演者として演奏を楽しんでいました。メンバーが別れ際に言った「リヒテルさんに再会するのが楽しみだ」という言葉が印象に残っています。

    時空を越えた一流アーティストの共演を目撃してほしい

     「科学の実験が成功した」「おもしろいコンサートだった」ではなく、「いい音楽だった」「あの演奏がすばらしかった」というように、普通のコンサートとして、皆さんに音楽を楽しんでほしいと考えています。

     今回は初の試みで、「完成品」の披露ではありません。何をもって完成とするか、もしかすると演奏が永遠に完成しないのと同じで、完成に至ることはないかもしれない。ただ、人工知能と人とが演奏できる可能性を見いだせたら大成功です。当日、さまざまな課題も出てくるでしょう。それらを音楽家や研究者が考えていく。純粋に音楽を楽しめるコンサートとしてではなく、問題提起の場としても、貴重な一夜になると思います。

    公演データ

    【音舞の調べ~超越する時間と空間~】

    日時:5月19日(木)19:00開演(18:15~ プレトーク)

    会場:東京芸術大学奏楽堂

    管弦楽:ベルリン・フィル・シャルーンアンサンブル

    プレトークおよびショーに出演:コシノ ジュンコ(デザイナー)

    プレトークに出演:松下功(作曲家・東京芸術大学副学長)、田邑元一(ヤマハ研究開発統括部 第1研究開発部長)

    シューベルト:ピアノ五重奏曲「鱒」イ長調 D667より 第4、5楽章](※人工知能との共演) 

    ベートーヴェン:「七重奏曲」変ホ長調 作品20より 第1、3、5、6楽章

    ドヴォルジャーク:「チェコ組曲」ニ長調 作品39

    松下功:「音舞の調べ」(2016)~ 時、人、空を繋ぐ「間」 ~

    ウェブサイト:東京芸術大学

    http://www.geidai.ac.jp/container/sogakudo/42959.html

    カンフェティチケットセンター 0120・240・540(受付時間 平日10:00~18:00) http://confetti-web.com

    問い合わせ:東京芸術大学演奏芸術センター

    TEL: 050・5525・2465

    Mail: arts-coi@ml.geidai.ac.jp

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