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バッティストーニ

過去の傑作を現代の読み解き方で~東京フィル首席指揮者就任インタビュー(上)

 イタリア出身の若手指揮者アンドレア・バッティストーニが今月から東京フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者に就任した。1987年生まれのバッティストーニは2012年に史上最年少の若さでミラノ・スカラ座にデビューを果たすなど、その豊かな才能で国際的に注目を集めている。東京フィルとは2012年の初共演以来、何度も息の合った熱演を繰り広げて専門家、聴衆の双方から高い評価を得ており、首席指揮者就任によってさらに密度の濃い共同作業が期待できそうだ。そこでバッティストーニにインタビューし今後の活動などについて聞いた。(聞き手 宮嶋 極)

インタビューに答えるバッティストーニ(C)Naoko Nagasawa

 ――東京フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者就任おめでとうございます。初共演以来、多くの名演で日本の音楽ファンの注目を集めていますが、ご自身は東京フィルについてどのような印象をお持ちですか?

 バッティストーニ(以下、B) 今回、東京フィルとの仕事を始められたということをとても喜んでおります。それは日本のオーケストラとイタリアの指揮者の私という組み合わせについてです。一見双方に違いがあるようにも感じられますが、実はたくさん共通点や利点があるということをこれまでの共演を通じて発見できたからです。東京フィルは技術的には非常に高いレベルにあります。一方、イタリアで生まれてイタリアで音楽教育を受けた私はとりわけイタリア音楽の解釈や演奏様式について当然イタリア式のスタイルを身に着けております。こうした私のアイデアを実践してもらうことは、技術レベルの高い東京フィルにとって決して難しくはありません。日本とイタリアという二つの文化を融合させた中で、とても望ましい形で私のアイデアが実現できているのです。特に、過去の傑作の中で現代の読み解き方で演奏すべきものが多数ありますので、これからそうしたものに取り組んでいきたいと考えています。

 ――これは今月のオペラシティ定期シリーズで取り上げるベートーヴェンもそのひとつですか?

 B そうですね。ベートーヴェンはもっとも重要な作曲家のひとりですから。クラシック音楽全体のよりどころのような作曲家だと考えます。そうした作曲家の解釈に関して新しい視点、特に今日の自分たちの考え方に合った読み取り方で、聴衆に刺激を与える演奏をしたいと思っています。伝統的な演奏方法が素晴らしいものであったとしても、私はそれを繰り返すことにはあまり意味はないと考えます。傑作というものはやはり今まで発見され、実践されてきた読み取り方だけでなく、まだまだそこから多くのものを発見できるからこそ、傑作であるのです。固定観念に捉われずに一から作品に向かい合って新しい発見をしていくということが重要です。

 ――任期中にベートーヴェンの交響曲ツィクルスを行うなどのお考えはありますか?

 B ベートーヴェンの交響曲ツィクルスには非常に興味があります。全9曲を連続して演奏していくことで、彼の交響曲の書法の発展経過を明らかにすることができるからです。また、私にとってツィクルスであれば演奏したいけれど1曲だけ独立して演奏することにあまり意義を見いだせない交響曲もあります。例えば2番や4番ですね。それは過渡期にある作品だからです。逆にツィクルスの場合はこうした作品が非常に重要になってくるわけです。ですからベートーヴェン・ツィクルスはぜひ実現させたい、と考えています。

 ――首席指揮者に就任後、最初の大きな企画としてマスカーニの「イリス」という日本に題材をとったオペラを演奏会形式で上演しますね。プッチーニの「蝶々夫人」は日本でも取り上げられる機会は多いですが、「イリス」は名前を知っていても実際にステージや演奏に接したことのある人は多くはありません。この作品の魅力についてご紹介ください。

 B 「イリス」は初めて日本を題材に作られたイタリア・オペラです。今日のイタリアでも有名とは言い難いのですが、マスカーニの中では傑作と位置付けてよい作品です。ただ、このオペラにはひとつ難点があります。それはこの作品の特徴的な魅力ともいえるのですが、劇場での舞台上演に不向きだということです。「蝶々夫人」が劇場で上演するオペラとして人気があるのは物語がよくできていて、観客が自分も蝶々さんのストーリーに入り込んで応援し、夢中になって見ることができるからです。「蝶々夫人」はリアリティーにあふれた物語であり、当時の日本について正確ではないものの、現実にかなり近い描写がなされています。音楽も五音階の旋律が多用されるなど昔の日本のスタイルが採用されています。こうした点からもプッチーニは日本について十分勉強をして、それを取り入れて書いた作品だなということが分かります。これに対して「イリス」はまったく逆のアプローチで書かれた作品であり、現実離れした象徴主義的なお話です。劇的な展開に乏しく、表現されているのはフランスの象徴主義的な詩の世界なのです。ですから「イリス」の中で日本は現実の日本とはまったく関係のないおとぎの国として描かれています。

 ――同じジャポニズム・オペラといっても「蝶々夫人」とは趣を異にする作品なのですね。

 B その通りです。マスカーニが「イリス」を書くにあたってインスピレーションを得たのは葛飾北斎の絵ですとか、びょうぶ画、日本から輸入された衣装などだったといわれています。それらを見てエキゾチシズムや神秘的なものを感じ取っていただけなのですね。ですから「蝶々夫人」と同じアプローチで鑑賞するオペラではないのです。「蝶々夫人」を見たときと同じような情感や感動を味わえる作品ではありません。「イリス」には不安をかきたてる神秘的な雰囲気があり、繊細なニュアンスに富む一方で、輪郭がはっきりしないような世界観のある作品です。

 ――音楽の特徴は?

 B マスカーニの作品の中でもオーケストラの使用法がとても成熟していることが特徴です。「カヴァレリア・ルスティカーナ」はとても美しく素晴らしい作品ですが、オーケストレーションについてはまだ拙いところが残されています。その点「イリス」は非常に円熟した書法でオーケストラがストーリーを表現し、内包している雰囲気を余すところなく描き出しています。とはいえ音楽そのものは折衷主義的なところがあって本当に東洋の音楽を感じさせるところは少ないのです。逆に当時のヨーロッパ音楽のさまざまな傾向を見いだすことができます。とりわけワーグナーに代表されるドイツ・オペラの影響を強く感じます。フランスの象徴主義的な音楽の影響もあります。さらにマスカーニですからイタリア気質も随所にちりばめられており、「太陽神ヨールのセレナード」というのがあって、これはほぼナポリの民謡のような感じですね。マスカーニはさまざまな要素を一つの作品の中で融合させる才能があったのでしょう。万華鏡のように変化していく音楽を楽しむということがこの作品を鑑賞する上での大きな楽しみのひとつだと思います。

 

【動画メッセージの意訳】

 クラシックナビをご覧頂いている皆さま、こんにちは!アンドレア・バッティストーニです。私のインタビュー記事を皆さんが読んでくださり、とてもうれしく思います。これから私は東京フィルと共に素晴らしい音楽を作って参ります。東京でも、そして東京以外でも、私たちの演奏をぜひ聴きにいらしてください。皆さんの心を動かす演奏をお聴かせ致します。ご期待ください。

略歴

アンドレア・バッティストーニ

 1987年イタリア・ヴェローナ生まれ。同世代の最も重要な指揮者の一人と評されている。2012年、史上最年少でミラノ・スカラ座デビュー。13年1月よりジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ歌劇場首席客演指揮者に就任。東京フィルでは15年4月より首席客演指揮者を務め、今年10月首席指揮者に就任。トリノ・レージョ劇場、カルロ・フェリーチェ劇場、ヴェニス・フェニーチェ劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、スウェーデン王立歌劇場、アレーナ・ディ・ヴェローナ、バイエルン州立歌劇場などに客演。スカラ・フィル、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管、イスラエル・フィルなど著名なオーケストラとも多くの共演を重ねている。

 

公演データ

アンドレア・バッティストーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団10月定期演奏会

【マスカーニ:歌劇「イリス(あやめ)」(演奏会形式上演・日本語字幕付き)】

10月16日(日) 15:00 Bunkamura オーチャードホール

10月20日(木) 19:00 サントリーホール大ホール

 

イリス(ソプラノ):ラケーレ・スターニシ

チェーコ(バス):妻屋秀和

大阪(テノール):フランチェスコ・アニーレ

京都(バリトン):町 英和

ディーア/芸者(ソプラノ):鷲尾 麻衣

ごみ拾い/行商人(テノール):伊達英二

合唱:新国立劇場合唱団  ほか

 

【東京オペラシティ定期シリーズ】

10月19日(水) 19:00 東京オペラシティ コンサートホール

ヴェルディ:歌劇「ルイザ・ミラー」序曲

ヴェルディ:歌劇「マクベス」より舞曲

ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲

ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調 Op.67「運命」

筆者プロフィル

宮嶋 極(みやじま きわみ) スポーツニッポン新聞社勤務の傍ら音楽ジャーナリストとして活動。スポニチ紙面、ウェブにおける取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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