メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

アンコール

パシフイック・ミュージック・フェスティバル(PMF)2018

 若手音楽家の育成を目指す国際教育音楽祭「パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)」が7月7日から8月1日までの間、札幌をメイン会場に開催された。オーディションで選ばれた世界22カ国・地域の若手音楽家102人がアカデミー生として参加。PMF芸術監督で指揮者のヴァレリー・ゲルギエフ、同首席指揮者のジョン・アクセルロッド、五嶋みどり(ヴァイオリン)、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルの主要メンバーら国際的に活躍する音楽家の指導の下、多様なプログラムに取り組み、研さんを積んだ。その総決算となるPMFガラ・コンサート(7月29日、札幌コンサートホール・キタラ)の模様を振り返る。(宮嶋 極)

     20世紀を代表する指揮者のひとりで、作曲家としてもジャンルを超えて数々の名曲を世に残したレナード・バーンスタインが死の直前に来日し、札幌に長期滞在して創設したPMF。筆者は当時、バーンスタインを取材しこの音楽祭への思いを直接、聞くことができた。「自分の残り少ない人生を次の世代の音楽家の育成のためにささげたい」と教育にかける情熱を熱く語っていたバーンスタインだが、体調は悪かったとはいえ、そのわずか3カ月余り後にこの世を去るとは本人はもちろん、私たち周囲の人間も予想もしなかったことである。今年はそのバーンスタイン生誕100年のメモリアルイヤー。PMFも一時期より規模は縮小されたものの、29回を数えるに至った。バーンスタインの〝遺産〟ともいえるこの音楽祭は日本の北の大地にしっかりと根付き、第一線で活躍する音楽家を数多く輩出するなど、世界有数の教育音楽祭のひとつに数えられるまでになった。

     筆者は創設以来、ほぼ毎年、取材しているがPMF出身の若手音楽家の活躍などにより同音楽祭に対する世界的な認知度が高まり、ここ数年、アカデミー生と呼ばれる受講生の水準もかなり向上してきたように感じる。今年のPMFを締めくくるガラ・コンサートのメイン演目はマーラーの交響曲第7番「夜の歌」。マーラー後期の大作だが、音楽的にも技術的にも複雑で難しい作品だけに、若いアカデミー生たちによるPMFオーケストラが、その真髄にどこまで迫ることができるのか、若干の危惧の念も抱きながら、注目して公演に臨んだ。

     指揮は芸術監督のゲルギエフ。札幌入りから間髪を入れずにリハーサルを念入りに行い、当初予定になかったガラ・コンサート前日のピクニック・コンサートの指揮台にも立つことで、例年にも増して自らの意思をオーケストラに浸透させて、完成度を高めたという。それだけに、この作品の新たな可能性に光を当てるような斬新な演奏が繰り広げられ、それに応えたPMFオーケストラの実力の高さも改めて印象付ける結果となった。

     交響曲第7番は「夜の歌」という副題(本来は全曲に先行して作られた第2楽章と第4楽章だけに付けられたタイトル)に影響されてか、後期ロマン派特有の夜に象徴される深く沈殿した雰囲気と世紀末の陰うつさを投影させた解釈に基づいた演奏が主流であった。ところがゲルギエフは、全体に速いテンポで音楽に目覚ましいほどの推進力を持たせ、さまざまな旋律が絡み合う複雑な対位法や崩壊寸前の調性の妙を明快に表現する音楽作りで、この作品の持つ別の顔を見事なまでに浮き彫りにしてみせたのだ。さらに驚かされたのは第1楽章と第5楽章のテンポの速さである。特に第5楽章は通常の倍近いスピードといっても過言ではない速さであった。そこで強調されていたのが、全体を支配するリズムの鼓動と、曲の随所で際立つ躍動感である。こうすると、通例は曲全体からは〝浮いて〟聴こえる第5楽章が妙にシックリくるのである。これを聴いていてマーラーはもしかすると、当時の最先端の技法を駆使しながら、ワーグナーが「舞踏の神化」と評したベートーヴェンの交響曲第7番の世界を彼なりに再構築しようとしたのではないか、と思わせてくれるくらいの斬新な演奏であった。

     PMFでは開催期間の前半にウィーン・フィルとベルリン・フィルの首席奏者たちが、後半は米国の名門オーケストラの腕利き奏者たちがファカルティー(教授陣)として各パートの指導に当たるスタイルが定着している。札幌における総仕上げとなるガラ・コンサートでは、メトロポリタン歌劇場管弦楽団コンサートマスターのディヴィッド・チャンをはじめとするPMFアメリカの教授陣が、各パートのトップを務め、若いPMFオーケストラのメンバーをけん引して、演奏のブラッシュアップが図られる。マーラーの第7番は第5楽章がティンパニのソロで始まるなど、ティンパニの活躍が目立つ曲でもある。四つまたは、五つの楽器をセットして、ペダルを使って頻繁に音程を変えながら演奏するのであるが、今回のゲルギエフのような高速テンポだと、大きな楽器をコントロールしながら、音色に気を配り響きをコントロールしていくのはかなりの困難を要するはずだ。この日、ティンパニを担当したのはシカゴ交響楽団首席奏者のディヴッド・ハーバート。速いテンポをものともせずに、見事なマレット(アタマにフェルトの玉が付いたバチ)コントロールで、巧みに音色を変化させながら、圧倒的な名人芸を披露した。彼のようなヴィルトゥオーゾ(名人)から指導を受けるだけではなく、オーケストラの中で一緒に演奏しながら、その名人芸を身近に体験することで、アカデミー生たちが得るものもより大きくなるはずだ。また、聴く私たちにも、名人たちが、若い音楽家に交じって自らの演奏を通して全体を引っ張っていく姿は、とても興味深い。

     なお、ガラ・コンサート前日の28日には札幌市郊外の札幌芸術の森野外ステージで恒例のピクニック・コンサートも開催された。

     来年はPMFの創立30年の節目の年となる。この音楽祭のさらなる充実に向けて、さまざまな企画が検討されているそうで、PMFファンの期待も一層膨らむことになりそうだ。

    ☆公演データ

    【PMF ガラ・コンサート】

    7月29日(日)15:00 札幌コンサートホール キタラ

    指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ/ダニエル・マツカワ

    演出:三浦 安浩

    司会&ソプラノ:天羽 明惠

    ハープ:安楽 真理子

    オルガン:マルタン・グレゴリウス

    声楽:PMFヴォーカル・メンバー/札幌大谷大学音楽学科合唱団

    管弦楽:PMFアメリカ/PMFオーケストラ

    ◎第1部

    グレゴリウス:PMF GALAコンサートのテーマによる即興

    バーンスタイン:「キャンディード」から〝着飾ってきらびやかに〟

    ハイドン:弦楽四重奏曲 ニ長調 作品50 第6番「蛙」から第4楽章

    [オペラ・デュエット集]

    ベッリーニ:歌劇「ノルマ」第2幕からノルマとアダルジーザの二重唱〝お呼びになりま

      したか、おおノルマ様? ご覧ください、ノルマ様、あなたの膝に〟

    ヴェルディ:歌劇「イル・トルヴァトーレ」第4幕第2場から[レオノーラと伯爵の二重

    唱]〝聞いているな?夜が明けたなら、息子は斧で…その声は!〟

    ドビュッシー:神聖な舞曲と世俗的な舞曲

    ホルスト:PMF賛歌「ジュピター」(編曲:田中カレン/作詞:井上頌一)

    ◎第2部

    ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲

    バーンスタイン:「ハリル」

    マーラー:交響曲第7番ホ短調Op.70 「夜の歌」

    【PMFピクニック・コンサート~レナード・バーンスタイン・メモリアル・コンサート】

    7月28日(土)13:00 札幌芸術の森野外ステージ

    指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ/ダニエル・マツカワ

    ソプラノ&司会:天羽 明惠

    ハープ:安楽 真理子

    ピアノ:佐久間 晃子/岩渕 慶子

    演奏:札幌市立伏見中学校吹奏楽部(指揮=中島史紀)/千歳ジュニアオーケストラ

       (指揮=野村聡)

    声楽:PMFヴォーカル・アカデミー/大谷大学芸術学部音楽学科合唱団

    管弦楽:PMFアメリカ/PMFオーケストラ

    ◎第1部 

    [千歳ジュニアオーケストラによる演奏]

    エルガー:威風堂々 第1番

    J.・ウィリアムズ:スターウォーズ・メインテーマ ほか

    [札幌市立伏見中学校吹奏楽部による演奏]

    ガーシュウィン(福島弘和編):歌劇「ポーギーとベス」より

    ◎第2部

    バーンスタイン:ダンス組曲

    バーンスタイン:ピアノ三重奏曲

    ワーグナー:「ジークフリート牧歌」

    ドビュッシー:神聖な舞曲と世俗的な舞曲

    [オペラ・アリア集]

    ◎第3部 PMFオーケストラ演奏会

    マーラー:交響曲第7番ホ短調Op.70 「夜の歌」

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 沖縄読谷 米兵、酔って民家侵入 高2長女、妹抱え逃げる
    2. 新潮45 杉田氏擁護特集で社長コメント「常識逸脱した」
    3. 新潮45 杉田水脈議員擁護の特集 批判は「見当はずれ」
    4. 新潮45 最新号特集に批判拡大 「社内造反」に応援次々
    5. 懲戒処分 職務中に性行為、不倫の警官 県警 /兵庫

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです