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首都圏に本拠を置くオーケストラが新型コロナ・ウィルスの感染防止対策を徹底した上で、聴衆を収容しての演奏会を再開し始めた。大野和士指揮・東京都交響楽団(12日、サントリーホール)、原田慶太楼指揮・読売日本交響楽団(14日、同)、佐渡裕指揮・東京フィルハーモニー交響楽団(15日、同)の各公演を取材した。いずれの公演も出入り口での手指消毒とマスクの装着を義務付け、客席は前後左右を空ける形とし、全体の収容人数は定員の3分の1から4分の1程度にとどめ、ステージ上もオーケストラ編成を小さくして、プレーヤー間の距離を保つなどの措置が取られていた。〝ウィズ・コロナ〟の演奏会のあり方を手探りしながら見いだしていくようなコンサートであったが、弾く喜び、聴くことができる喜びが満ちあふれていた。これら公演の模様を3回にわたってリポートする。
(音楽ジャーナリスト 宮嶋 極)
【大野和士指揮 東京都交響楽団 都響スペシャル2020】
各オーケストラともに入場券の半券を係員が切り取る〝もぎり〟は行わず聴衆が自ら切って半券を箱に入れることでホールのスタッフとの接触機会を減らしていた。私たち取材者も通常であれば入り口で案内状と交換で座席券を受け取って入場するのだが、どのオケも座席券を事前に送付するスタイルをとっていた。さらに都響は入り口でひとりひとりに検温を実施する念の入れようであった。
この日はステージを取り囲むLA、RA、P席は使用せず、1階正面前方も空席とし出演者と聴衆の距離を十分に確保。オケは弦楽器が12型と小さめ。これは第1ヴァイオリンを12人(6プルト)とし第2(10人)、ヴィオラ(8人)、チェロ(6人)、コントラバス(4人)の合計40人からなる編成。都響のようなモダン・オケがロマン派以降の曲を演奏する場合、第1ヴァイオリン16人を基本とするいわゆる16型(弦楽器合計60人)がスタンダードであり、12型はハイドンやモーツァルトの作品を演奏する際に最適とされる規模である。この日のプログラムはコープランドの「市民のためのファンファーレ」などの小曲2曲とベートーヴェンの交響曲第1番とプロコフィエフの「古典交響曲」というプログラムだけに管楽器も2管編成であり、ステージ上も空きスペースが目立った。
しかし、小編成にもかかわらずトゥッティ(全奏)で強音を鳴らすと「日本のオーケストラはこんなに大きな音が出たのか」と驚くほどの音量であった。客席が通常の3分の1以下の収容人数なので、豊かに響くというのはもちろんのことではあるが、それだけではない。聴衆を前にしての約4カ月ぶりのステージにメンバーひとりひとりの思いと気迫がひとつひとつの音に込められた結果、ホール全体を力強い響きが満たしたように筆者には感じられた。
また、ステージの音が普段よりもよく聴こえることで作品に対する大野の緻密な分析と組み立てが、より明確に伝わってくるのも面白かった。古典派スタイルの構成美をキッチリ表現しつつ、その一方で同じような形式と編成でもベートーヴェンとプロコフィエフでは、作品に内在するさまざまな要素や色合いが違っていることを今さらながらに再認識させてくれる見事な演奏であった。
終演後、オーケストラが退場しても喝采は鳴りやまず大野は矢部達哉、四方恭子の両ソロ・コンサートマスターとともに再登場しブラボーを自粛した聴衆の喝采に応えていた。
公演データ
【大野和士指揮 東京都交響楽団 都響スペシャル2020】
7月12日(日)14:00 サントリーホール
コープランド:市民のためのファンファーレ
ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調Op.21
デュカス:舞踏詩「ラ・ペリ」より〝ファンファーレ〟
プロコフィエフ:交響曲第1番ニ長調Op.25 「古典交響曲」
筆者プロフィル
宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。