
平成の日本政・官界を取材してきた伊藤智永専門編集委員が担当するコラム。
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広島サミット再論=伊藤智永
2023/5/27 02:02 1018文字<do-ki> 広島県加茂村(現福山市)出身の井伏鱒二は、最初の東京オリンピックがあった翌年、戦後20年で初めて原爆を小説にした。高度経済成長の繁栄まっただ中。被爆者の日記や証言を基に書いた。 「ノートを取っていると、話している人が息をのみ込んだ。3度くらいあった。よほど得体の知れない怖さがあった
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広島ヒロシマひろしま=伊藤智永
2023/5/20 02:00 1018文字<do-ki> 米大統領として初めてオバマ氏が広島市を訪れた時、「謝罪なきヒロシマ献花」という論評記事を書いたら、ほとんど面識のない上役に呼ばれ、説諭された。 「自分の家族は爆心地から数キロの自宅で被爆したが、米国を恨んでいない。謝罪も求めない」 戦後の原爆観は、被爆体験から真っすぐできたわけでは
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母をこじらせて=伊藤智永
2023/5/13 02:01 1019文字<do-ki> 歌人で劇作家の寺山修司は本歌取りの名人だった。当時17歳のカルメン・マキさんが歌った「時には母のない子のように」(1969年)も、元は黒人霊歌だ。 「時々、自分を母のいない子供のように感じる/故郷から遠く離れて/天へと昇る道」 アフリカから奴隷として米国に連れて来られ、生きて二度と
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少子化の不都合な真実=伊藤智永
2023/5/6 02:02 1027文字<do-ki> 東京都内の住宅地で、鉄道高架下に幼児専用の遊び場ができた。遊具の間を裸足で走り回れる。今までどこにいたんだろうと不思議なくらい連日たくさんの親子が集まっている。狭くて少し暗いけれど、電車の騒音に慣れれば、直射日光が当たらず、雨でも利用できるので、むしろ好都合らしい。 通りすがりに気
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昭和ぎらい=伊藤智永
2023/4/29 02:05 1033文字<do-ki> 会話の中に「昭和っぽいね」という言い方が出てくると、相づちを打つ人たちも含めて、否定的な語感が強くなった。以前はレトロな趣味にほほえむニュアンスだったのが、うっとうしいものを迷惑がる感じ。うなずき合う目配せに、冷笑すら浮かんでいる。 気づいたのは、元号が令和に改まった頃からだったか
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約束されている失敗=伊藤智永
2023/4/22 02:02 1022文字<do-ki> 始める前から失敗と無駄を警告されたようなものだろう。岸田文雄政権の少子化対策は、各種手当・給付の「異次元なバラマキ」案を並べるが、国連人口基金(UNFPA)は19日発表した報告書で、そうした施策に効果は乏しいと指摘しているからだ。 同基金が毎年出す「世界人口白書」2023年版は、世
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そして母になる=伊藤智永
2023/4/15 02:00 1025文字<do-ki> つい3年前まで、自分はもう子供を産むことはないだろう、結婚もたぶん無理だろうなと思っていた。でも今、社会人から中学3年まで4人の子供がいる。 こども家庭庁の発足式に臨んだ3日、内閣府政務官で参院議員の自見はなこさん(47)は帰宅後、家族で食卓を囲んだ。自民党若手有志と同庁創設へ勉強
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結婚のかたち=伊藤智永
2023/4/8 02:01 1025文字<do-ki> テレビ脚本家の向田邦子さん(1929~81)は生前「ホームドラマの旗手」と呼ばれたというが、「阿修羅のごとく」(79年)、「あ・うん」(80年)など代表作の多くは不倫モノである。 といっても主要テーマではなく、中心人物にそういう異性関係を抱える役が必ず登場する。家庭は不穏にきしむが
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戸籍、廃止します=伊藤智永
2023/4/1 02:08 1028文字<do-ki> 戸籍を廃止する――。6月にまとめる政府の少子化対策で、岸田文雄首相が文字通り異次元の秘策を検討している。少子化が止まらない原因の一つに、日本は欧米と比べ、婚外子が極端に少ない問題がある。50%を超えるフランス、スウェーデンに対し、日本はわずか2%余り。戸籍制度に基づく社会の差別意識
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戦前に身をおき考える=伊藤智永
2023/3/25 02:02 1029文字<do-ki> ウクライナを訪問した岸田文雄首相は、ゼレンスキー大統領への手土産に地元広島の名産品「必勝しゃもじ」を贈ったそうだ。敵を「飯(召し)とる」の語呂合わせで、出征兵士が厳島神社に奉納した時代もあったが、今は選挙などに使われる縁起物らしい。 外交儀礼にしても、これはいただけない。無神経や悪
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「死者の奢り」再読=伊藤智永
2023/3/18 02:01 1023文字<do-ki> 大江健三郎氏の文壇デビュー作「死者の奢(おご)り」(1957年)は、今読んでも古びていない。大学医学部の地下で、アルコール漬けの水槽にぎっしり浮かぶ解剖実習用の死体。アルバイト学生の男女2人が、それらを別の水槽に移す体験を書いた短編である。 閉じた空間で「物」であるはずの死体は、生
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産めよ殖やせよ=伊藤智永
2023/3/11 02:01 1017文字<do-ki> ロシアはウクライナ侵攻を公式には戦争と認めず、「特別軍事作戦だ」と言って始めた。 戦前の日本も中国大陸侵攻を戦争とは呼ばなかった。最初は「盧溝橋事件」をきっかけに始まった「北支事変」、それが「第2次上海事変」に飛び火し全面戦争となるや、今度は「支那事変」と命名して押し通した。 開戦
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新しい戦前=伊藤智永
2023/3/4 02:00 987文字<do-ki> 昨年暮れ、昼過ぎのテレビ番組「徹子の部屋」で、タモリさんが「来年はどんな年」と聞かれて、「新しい戦前になるんじゃないでしょうか」と答えていた。 たまたま同じ日の朝刊1面コラム「余録」に、こんな俳句が引用されている。「戦争が廊下の奥に立つてゐた」(1939年、渡辺白泉)。ラジオでも、
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小林秀雄の開眼=伊藤智永
2023/2/25 02:02 1022文字<do-ki> 「1人の作家の全集を読め」。文芸批評家の小林秀雄が「読むのにも技術がいる」として勧めた工夫である。発表作以外に草稿、日記、手紙、メモまでくまなく読むと「代表作が、どんなにたくさんの思想を犠牲にして生まれたものかが納得できる」からだ。 小林は19世紀ロシア文学によって「文学に開眼した
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3人のE・H・カー=伊藤智永
2023/2/18 02:01 1030文字<do-ki> 歴史って何? これは悪魔の問いである。大河ドラマや三国志やローマ人の物語に夢中になっている最中、この疑問は浮かばない。楽しむ自分に疑いが兆すと、悪魔がささやく。答えはない。私って誰? 答えられますか。 E・H・カー「歴史とは何か」の新訳が昨年、60年ぶりに出た。昭和の大学受験生が一
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2人のジョージ・ケナン=伊藤智永
2023/2/11 02:01 1017文字<do-ki> 冷戦期に対ソ連「封じ込め」政策を提唱した米外交官、ジョージ・ケナン(1904~2005)には、同姓同名で誕生日も同じ大叔父がいた。こちらは19世紀末、帝政ロシアの奥地を幾度も探検し、著書や講演が全米で大評判となった著名なジャーナリスト(1845~1924)だ。 中でも「シベリアと流
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ロシア的人間=伊藤智永
2023/2/4 02:01 1024文字<do-ki> 「ロシアは今日、世界の話題である。人類の未来とか、世界の運命とか、人間的幸福の建設とかいう大きな問題を、人はロシアをぬきにしては考えることができない。肯定的にせよ、否定的にせよ、誰もがロシアに対して態度を決定することを迫られている」 最近の文章のようだが、書かれたのは1953年1月
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映画の王国ジョージア=伊藤智永
2023/1/28 02:00 1017文字<do-ki> モスクワから南へ車で24時間。カフカス山脈を越えた黒海東岸のジョージア。人口400万人の小国に、ウクライナ戦争が始まって以来、昨年だけでロシア人11万人以上が逃げ込んだ。 はらだたけひでさん(68)が暮れに3年ぶりで首都トビリシを訪れたのは、外相から「ジョージアの友人」賞を受けるた
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池田勇人の所得倍増=伊藤智永
2023/1/21 02:00 1027文字<do-ki> 「令和版所得倍増をめざす」 一昨年秋の自民党総裁選で岸田文雄首相は「新しい資本主義」の中身をそう語った。それが昨年春に「資産所得倍増」、さらに「投資倍増」へ変わり、今や「軍拡増税」を掲げて高ぶっている。 国民所得倍増計画(1960年)といえば岸田派(宏池会)創設者・池田勇人(はやと
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支配した側の重い石=伊藤智永
2023/1/14 02:01 1034文字<do-ki> 徴用工問題で悪化した日韓関係が修復へ向けて動き出す。東アジア情勢を考えれば、もはや解決は両国の政治的使命である。 ここまでこじれたいきさつは、両国民双方の心の壁がなお厚く高いことを考えさせずにおかない。韓国はゆるす苦しみと葛藤している。壁を越えるには、向き合う側にも植民地を支配した
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