(講談社・1785円)
いいヤツなんだけど、ちょっと頼りない青年を主人公にした長編小説。現代の厳しい社会状況を背景に、物語が大きくうねる。直木賞作家の代表作の一つになったのではないか。
「なかなかテーマが見つかりませんでした。キーワードが出てこないし、題材を思いつかない。でも、今の時代の断片を書きたいという思いはあったのです。何て、ものが見えにくい時代なんだろう、このモヤモヤした、逃げ場がない感じを書けないか、と考えました」
主人公は、北海道の出身。東京の大学を卒業して東証二部上場企業に入ったが、上司が気に入らず2カ月で退社。再就職した会社は倒産。派遣会社に紹介された職場も続かず、住む家まで失う。ネットカフェから住み込みの職場へと遍歴が続く。
「けっこうあせっているんだけれど、プライドも高い。一言でいえば、幼稚というか(笑い)。でも、屈折しているわけではないと思うのですね」
心優しくて、他人への誠意もあるし、正義感だって持ち合わせている。ただ、エネルギー不足で、甘えていて、へなちょこな主人公なのだ。
「そういう人に頑張れとは言えません。でも、とりあえず死なないで、生きていようよというメッセージを出したかった」
ある事件がきっかけで、主人公は故郷に帰る。そこでも自分の甘さが理由で、新たな失敗をしてしまう。彼の周囲にも、苦難や不幸に耐えながら、懸命に生きている人たちがいる。表題の「ニサッタ」はアイヌ語で「明日」の意味。いつか生きていてよかったと思える明日が来るように、という熱い思いが響いてくる。
「明るい時代なら、屈折した悪意を描いてもよかった。でも、今は、そういう人が当たり前にいる時代。風通しのいいもので、読者にも、死なないで、と伝えたかったのです」<文・重里徹也/写真・荒牧万佐行>
毎日新聞 2009年11月22日 東京朝刊