南極の「ドームふじ基地」に1年半勤務することになった南極観測隊の調理担当を主人公に、究極の単身赴任生活を送る8人の男たちをほのぼのと描いた映画「南極料理人」。実際に南極に行った体験をつづった西村淳さんのエッセー集「面白南極料理人」(新潮社)をもとに、今作で商業映画デビューとなる沖田修一監督が脚本も手がけた。もう一つの主人公といえるおいしそうな料理は、映画「かもめ食堂」などのフードスタイリスト、飯島奈美さんと榑谷孝子さんが担当、主題歌はユニコーンの「サラウンド」が起用された。主人公の西村を演じた堺雅人さんと雪氷学者・本(もと)さんを演じた生瀬勝久さんに、撮影時の苦労などを聞いた。【細田尚子】
--この映画の台本を読んで、また自身の役についてどう感じましたか。
堺 食堂を舞台にしたキャパ100~200人くらいの劇場でやる一幕もののお芝居のような作品だなという感想を最初に持ちました。さりげなさと人の温かさを描いた作品だな、と。役についてイメージしたのは、その食堂のセットの中で他人にサーブし続ける料理人の姿ですね。スポットライトは当たらないけれど、常に舞台に居続けるような。それは撮り終わった今もあまり変わっていません。
生瀬 (沖田)監督にお会いしたら、「ああ、こういう人が(脚本を)書いてるんだ」っていうような。らしいっていうか、豪快な人ではないなと思ったんですけど、お芝居がすごく好きで、人が好きで、ヒーローが世の中すべてじゃないというような世界観を持っている人が書いたんだなって。いろんな人がいて、初めて世界は作られているという、そういう人なんじゃないかな。役については、僕はこういう(堅物の)役をキャスティングされたことがあまりなかったので、非常に楽しかったですし、僕のことをそういうふうに見てくれた監督に感謝ですね。
--堺さんは料理人役に初挑戦したそうですが、やってみてどうでしたか。
堺 今回、一番大事だったことは、俳優の技術というよりも、ちゃんと料理ができるかどうかだったんです。例えば「盛りつけをする」というシーンでは、。僕の役がどんな気持ちなのかというよりも、盛りつけがちゃんとできるかどうかのほうが大事なことですからね。だから、シンプルなことに集中している素の表情がたくさん出ていたと思います。試写を見たとき、自分でも予測しなかった自分の顔があって、驚きました。
--おにぎりを握るのがすごくうまくなったとか。
堺 うまくなったというか、僕の手がものすごく“おにぎり向き”だということを発見しました。エッジが利いてて、とてもいいおにぎりができるんです。苦労したのはご飯の熱さですね。でも熱いほどおいしいので、我慢してたくさん握りました。
--この映画に出て、料理に対する考え方は変わりましたか。
堺 結局、僕は料理人にはなれないなと思いました。俳優の仕事って誰かに料理を作るよりも、誰かに作ってもらった料理をおいしく食べる仕事に似ているのかなって気がしてきたんです。僕の仕事は、せめて監督が3年がかりで書いた台本をおいしくいただくというか、そこできれいに踊ることなのかな、と。誰かに食べさせるというのは食べることと比べると、一段大人の欲求のような気がするんですよ。それを毎日やっている世のお母さんたちに改めて頭が下がる思いがしました。
生瀬 はー、もう結論出しちゃった(笑い)。
--生瀬さんは役作りはどのように?
生瀬 役作りってあまり僕はやらないんですね。台本に書かれているせりふをお芝居をしていないように、リアリティーがあるようにすることが役目だと思っているんです。その人がたまたま生活をしているところをカメラでとらえたというようになりたいなと思っているので、何か用意するのもどうかなと思って。でも知識は入れました。北大(北海道大学)の地質学の教授という本さんの人物評をじっくり読んで、そこから予想できる人物をイメージしたんですけどね。
--最後のほうは2人とも大分ひげが伸びてましたが、その姿を見てどうでしたか。
堺 あれは付けひげなんですよ。最近の技術ってすごいですね。僕は学生時代とかにときどき、(ひげを伸ばして)もっさりした自分も見ているので、そんなに違和感はなかったです。
生瀬 僕はひげが薄いんですよ。だから、こんなに生やしていただいて楽しかったです(笑い)。
--撮影中、印象に残ったエピソードは?
堺 (基地内の)小ぶりなテーブルでピンポンのラリーをしながらせりふを話すシーンがあるんですけど、生瀬さんに前日から練習に付き合ってもらって。本番では長いせりふの最中、ずっとラリーが続いて、1テークでOKだったんですよ。
生瀬 (小さな台で)意外とすごく難しいんですよ。それをずっとせりふを言いながらですからね。怖かった(笑い)。なんかものすごくドキドキしました。それで、2人で練習しているとき、(タイチョー役の)きたろうさんがやってきて、いきなり本気でやり始めて。「賭けようか?」とかなんと大人げない……。
堺 撮影中、みんなでボウリングをやったり、僕はやってないけどマージャンをするシーンや、ダーツにもはまりましたね。
--女性がいない場面ばかりで、現場も女性は少ないと思いますが、男の友情が芽生えたりしませんでしたか。
生瀬 楽しかったですよ。気を使わなくてよかったっていうのが。(現場は)男の合宿所みたいで、気にせずに感情を出せた。普通に何でも言える状態ってちょっと特殊だと思うんです。
堺 マイナスの感情を出せる(雰囲気)って大事なんですよね。
生瀬 仲良くないと言えないんですよね。それが小劇場出身の人が多かったのもあって(いい雰囲気だった)。
--見どころとメッセージを。
堺 「みんなでご飯を食べるとおいしいよ」っていうシンプルなメッセージを丁寧に描いていて、小さな声に耳を傾けることができる監督が、ささやかなことをすごく丁寧に描いた映画です。結果的にすごく重厚でどっしりとした作品になっているという印象が僕の中にはあります。ぜひ、大切な人と見に来て、見た後で、ご飯でも一緒に食べていただければ、僕は非常にうれしいです。
生瀬 食卓って非常にいい舞台なんだなと。その舞台を見つけた監督もすごいし、そこでこういうストーリーを作ったのもすごいと思うので、ぜひ見ていただきたいですね。食卓って、いろんな人が「今日何があった」とか、「どこに行こうか」とか、話し合ったりして、そこがスタートだったり、休憩場所だったりするわけだから、なんかすてきなんだな。改めて僕も一度、食卓を意識してみたいなと思いました。
<堺雅人さんのプロフィル>
1973年10月14日、宮崎県出身。92年から劇団「東京オレンジ」(早稲田劇研)で活動を開始。NHK連続テレビ小説「オードリー」(00~01年)やNHK大河ドラマ「新選組!」(04年)に出演。08年、NHK大河ドラマ「篤姫」で徳川家定を演じ、幅広い人気を獲得した。08年は映画「ジャージの二人」「アフタースクール」「クライマーズ・ハイ」に出演。09年には映画「ジェネラル・ルージュの凱旋」「ラッシュライフ(黒澤編)」などに出演した。公開待機作に「クヒオ大佐」「ゴールデンスランバー」がある。初の著書「文・堺雅人」が発売中。
<生瀬勝久さんのプロフィル>
1960年10月13日、兵庫県出身。大学在学中の83年に劇団「そとばこまち」に参加。88年に座長を務める。01年に退団後は舞台、映画、ドラマなどに幅広く活躍。映画デビューは「トキワ荘の青春」(96年)。その後、ドラマ「トリック」(00年~)や「ごくせん」(02年~)などヒット作に出演。映画は「THE有頂天ホテル」(06年)や「ヤッターマン」(09年)、「山形スクリーム」(09年)など。公開待機作は「サイドウェイズ」(09年)。
2009年8月29日