「家族ゲーム」(83年)や「失楽園」(97年)の森田芳光監督最新作「わたし出すわ」が31日、公開される。96年の「(ハル)」以来13年ぶりの完全オリジナル作品で、テーマに「お金の使い方」を選んだ背景や、小雪さん(32)を主演に起用したエピソードなどを森田監督に聞いた。
「わたし出すわ」は、東京から故郷に突然戻ってきた主人公・摩耶(小雪さん)が、旧友たちが望む“もの”や“こと”にお金を出していくシーンから動き始める。サブプライムローンに端を発した金融破綻(はたん)による世界的な経済不況下で、「お金の使い方」を通して人間としての生き方を問いかける“問題作”だ。
戸惑いながらも摩耶の申し出を受け入れる旧友たちの夢や希望は、「世界の路面電車巡り」「マラソンランナーとしての再起」「街でトップの価値のある女でいること」などさまざま。森田監督は「僕は人を描くことに懸けているんです。お金がテーマではあるけれど、その受け渡しだけになってしまうと伝わるものも伝わらなくなってしまう。摩耶にとっては『お金をあげて私えらいでしょう?』ではなく、『このままでいいの?』『みんな本当に外へ出なくていいの?』と伝えたいだけ。当然ながら、その部分の描写にはすごく気を使いましたよ」と話す。
「わたし出すわ」というタイトルは、構想段階から決まっていたそうで、「脚本を執筆する前から、いい言葉だと思っていました。タイトル自体がコンセプトですし、いかようにも解釈できますから」と“確信犯”的に笑う。その“共犯”相手に選ばれた主演の小雪さんだが、森田監督は01年の日本経済新聞社のCMを挙げ、「当時見ていて、『経済的なことを考える女性のキャスティングとして秀逸だなあ』と感じました」と振り返る。
ブラックマネーで、膨大な利益を手にし、自分の本質を模索する役どころに挑んだ小雪さんだが、単独では映画初主演。「僕もビックリしました。でも、この役は小雪さん以外考えられなかったし、撮影地の函館に合うと思ったんですよね。気さくで少女みたいなところもあるんだけれども、必ずしもストレートに全部が見えるわけではなく余白のある方だから。結果として、僕が思っていた以上に摩耶という役を演じきってくれた」と絶賛した。
森田監督にとって函館での映画撮影は「ときめきに死す」(84年)を皮切りに「キッチン」(89年)、「海猫」(04年)、そして「わたし出すわ」で4本目。映画界全体を見渡してみても、函館での撮影は60年代の16本が最高だったが、00年代に入って19本と記録が塗り替えられた。「僕にとって函館で撮る映画って、断定的ではなく見る人に多く余白を与えるんです。一人でたたずんでいると、函館の風景そのものからいろんなことが思い浮かぶようになりますから。そこに小雪さんが絶妙にリンクしたんです」と函館の魅力を説明した。
劇中では、身の丈に合った金銭感覚の人と、お金を得ることで顕著に変容する人とが違和感なく同居している。千差万別な価値観によって成立する社会に対し、森田監督は「人の才能が至るところで生かされる社会であってほしいな。機械が買えないことで倒産してしまう中小企業や、施設に恵まれずに実力が発揮できないスポーツ選手とか……どうにかしてあげたい。何ができるってわけではないんですが、そういう願いがこの映画には込められているんです。誰もが『わたし出すわ』って気持ちになっていたら、ずい分違う世の中になっているはずなんですよね」と訴える。
そして、「摩耶の場合は大金ですが、そうでない摩耶が出てきてもいいんじゃないかな。友だちに500円の文庫本を渡すだけで、その人は変わるかもしれない。『わたし出すわ』って映画を見せることで何かが変わるかもしれない。そういう摩耶的なアプローチの大切さっていうのを、この映画を通して気づいてくれるとうれしいですね」と語った。
<プロフィル>
1950年1月25日、東京都生まれ。大学在学中に映画製作を始め、81年に「の・ようなもの」でデビュー。83年に松田優作さん主演の「家族ゲーム」で注目を集める。「それから」(86年)、「失楽園」(97年)、「黒い家」(99年)など幅広い分野の作品を手がけ、近作には「間宮兄弟」(06年)、「サウスバウンド」(07年)、「椿三十郎」(07年)など。多くの作品で脚本も担当している。
2009年10月30日