「強い女と優しい男」の組み合わせで上質のラブコメディーを撮り続ける韓国のクァク・ジェヨン監督の最新作「最強☆彼女」(原題「武林女子大生」)が公開中だ。大ヒットした「猟奇的な彼女」「僕の彼女を紹介します」にあやかるように邦題には「彼女」の文字が入る。ヒロインは大学生から警察官、サイボーグへとエスカレートし、今回は武術界前人未到の達人という設定。ヒロインの“最強度”が増すほどに見えてくる最新韓国カップル事情を映画から探る。
作品のキーワードは「強い女はもてない」。武術世界の名門の出であるソフィ(シン・ミナ)は幼いころから英才教育を受け、並ぶものなき達人となった。そして20年間彼氏がいないソフィは、大学のアイスホッケー部に所属するイケメンの先輩、ジュンモ(ユゴン)に一目ぼれ。しかし、強い女はもてないばかりか、哀れみの対象にすらなるという恐ろしい“事実”を知り、悩んだ末に武術を捨てて恋を選ぶ。そこに、ともに修行に明け暮れた幼なじみのイリョン(オン・ジュワン)が現れ……。
強さを隠し、ひたすら優しい女の子を演じながら、彼氏の危機にはやむを得ず怪力を発揮してしまうという展開は笑いどころ満載だが、韓国では本当に強い女は敬遠されるのか。強い男性が、か弱い女を守るものだという伝統的な考え方が今なお残る韓国社会にあっては、現状を認めたうえでひねりを効かせて描いたようにも見えるが、あるいはそういう風潮を批判するためにあえて男女の立ち位置を逆転させたのか。監督の真意は物語の結末に現れているように思うが、気になる方は自分の目で確かめてみてはいかがだろうか。
監督は現代女性のイメージをつかむために秘かにリサーチをしている。最良のモデルは実は2人の娘という。「日ごろ親しんでいる音楽や映画は娘たちと仲よくすることで分かります。それがリサーチ替わりになる。そしてヒットする映画も彼女たちの見たい作品だと思うので、そういう映画を作るよう心がけています」と監督。また、デモや集会に参加する中・高校の女生徒たちのはつらつとした様子にもインスピレーションを感じるという。
キャスティングの進め方が面白い。まず、ヒロインを決めて、それから男性を探す。そのヒロイン像は透明感にあふれ、顔の小さい八頭身で、逆にお尻は大きければ大きいほどいい……。なにやら監督自身、伝統的な見方にとらわれているように見えるが、どこに飛んでいくか分らないという意味の、韓国で今はやりの「四次元」というイメージにこだわるところは新しい女性像を模索しているようにも見える。
ヒットメーカーでありながら、クァク監督が主演男優にと誘った俳優に何度か断られたことがあるというエピソードは、まだまだ軟弱と見られることへの男性側の抵抗の強さを証明していないだろうか。
監督は言う。「ヒロインが強いキャラクターなので対照的に(男性の)優しい面が強調されていますが、それは本当に弱いということではありません」。
監督はこんなエピソードも紹介してくれた。ヒロインの幼なじみ、イリョンを演じたオン・ジュワンに格闘シーンでは「水中深く潜って」と指示を出したところ、張り切りすぎたため耳の鼓膜が破れて血が出てきた。驚く一方、これで徴兵は免除だなと監督は確信したが、それでもオンは軍隊に行ったという。男女に関係なく、本当の強さとは「責任感に裏付けされた行為」ということかもしれない。
日本以上に価値観の変化の激しい韓国社会において、ジェンダーの問題は常に付きまとう課題とも言える。これからも斬新なカップル像が描かれることだろう。「最強☆彼女」は東京・シネマート新宿、シネマート六本木で公開中。その後、全国で順次公開。【紀平重成】
2008年12月19日