「トリック」や「ケイゾク」などのギャグも交えた軽妙な作品から、渡辺謙さんが主演・プロデュースした「明日の記憶」などのシリアス路線まで、幅広い作品を手がける堤幸彦監督が、自身も「初めて」という青春映画「包帯クラブ」を昨年発表した。DVD発売を機に映画への思いと撮影エピソードなどを聞いた。【文・写真 細田尚子】
原作は、「永遠の仔」などで知られる天童荒太さんの同名小説。傷ついた場所に包帯を巻き、手当てした風景をデジタルカメラで撮影してメールで投稿者に送るという活動を始めた高校生のサークル「包帯クラブ」を舞台にした青春ストーリーだ。変な関西弁をしゃべる個性的な少年ディノ役を柳楽優弥さんが、両親の離婚や進路に悩む少女ワラ役を石原さとみさんが好演した。
監督することが決まる前に原作を読んでいたという堤監督は「これまでの天童作品と全然違う」と感じたという。「天童さんがこういう温かい作品を書かれたことにとても興味を覚えました。(傷ついた場所に包帯を巻くという)不思議なシステムを持った話だなと思いましたけど、すごく読みやすくて、柔らかくってお客さんを選ばない」と絶賛する。
原作で、舞台となる町は「武道館でライブが終わって1時間で帰れる場所」としか書かれていない。堤監督はいろいろ探した揚げ句に群馬県高崎市に行き着いた。「天童さんはどこがモデルなのか教えてくれないんですよ。でも小説を書く時に詳細な地図とメモが作ってあって、町のイメージが天童さんの中にはっきりとある。それを読み解くパズルでもあったわけなんです。僕はもっと企業城下町のような場所をイメージしていたんですが、海が近すぎたり、雪が降って包帯が目立たないとかね……」と悩んだが、撮影現場に天童さんが訪れ、「いろんなところがぴったりと符号するんですよ。それに驚かれていました」と語り、選択に間違いがなかったことを実感したそうだ。
高崎を「関東だけど、空気感が大陸的で、東から太陽が昇る時はアメリカ的、西に太陽が沈む時はネパールにいるような感じの町。やっぱりBUCK-TICK(バクチク)やBOΦWY(ボウイ)が育ってきた町でロックに対してすごく優しい」といい、「場所が決まったことで曇りが晴れてすべてが見えてきた。1点でも自分が面白がれるポイントが見つかると、すごく(やる気が)伸びるんです」と成功のポイントに挙げる。
柳楽さんや石原さんは撮影に入る前から自分なりに役作りをしてきたというが、とくに柳楽さんは、破天荒なキャラクターを演じるにあたって「(監督と)最初に会った時に、テンガロンハットみたいな今どきこんなのはやらないだろうっていう変な帽子をかぶってきて『ディノってこんなんですよね』と言うんですよ。自分なりにしゅう恥心をなくすけいこをやってきていた」と並々ならぬやる気を感じたという。撮影に入る前に監督はおもな出演者と1泊2日で合宿をして、「まるで高校の演劇部のよう」に真剣に取り組んだ。
「東京で撮影して毎日解散していたらああいう作品にはならなかったと思うんです。高崎という1時間の微妙な距離と、事前に合宿もし、撮影で1カ月高崎にいて、みんなでわいわいと作った、いい連帯感や協調性を生み出したと思います。こんなに和気あいあいとした現場もなかなかない」と振り返る。「包帯クラブ」のメンバーは役と同じようないいチームワークだった。
「映画の中と全く同じなんですよね。(テンポ役の)関めぐみさんはあんなにスネた人じゃないですけど。(リスキ役の)佐藤千亜妃さんはすごく頭のいい子でね。ムードメーカーは(タンシオ役の)貫地谷しほりさんじゃないですかね。みんなを軟らかくまとめてくれました。(ギモ役の)田中圭くんはリーダーでした」。
撮影に使った包帯は1万8000メートル。そのほとんどをディノがビルの屋上に巻くシーンに費やした。ディノは屋上の柵を包帯で巻き尽くし、屋上の上を走り回って大声で叫びまくる。「あのシーンは柳楽が暴走しまして。柵より体を出すなと言ったのに、やっぱりやっていると気持ちいいんじゃないですかね、ついつい身を乗り出して……。『ロックミュージシャンのような気持ちだった』と言ってました。あれは名演技だと思いますよ。僕が撮った中でもかなり興奮するカットでした」と振り返る。
それ以外では、やはりラストの橋の上のシーンが印象に残っているという。「ほぼ(ストーリーの)順番に撮っていったんです。だからラストの橋のシーンも最後のほうで撮ったんですけど、なんか終わりたくないなあという気持ちがあったんです。異常に寒くって苦労したから特別に思い入れがある。寒いのが顔に出てもいいし、息が白くなってもいい。最後に気持ちがふっと温かくならなければいけない場面でね、どうしたらうまくいくのか、考えるのもつらいくらい寒かった(笑い)。石原さんは制服に生足で、柳楽くんはジャージで薄着なのに、頑張ってました。マイナス何度というところで、2人は本当に寒いなんて表情に出さずに、そして最後はぽわっと心が温かくなるシーンにしてくれた。いま(思い出しても)目頭が熱くなる感じです」と感慨深そうに話した。
青春ものは「意外とやってそうで、こんなにストレートなものはやってなかった」というが、10代のストーリーを50代の監督が手がけるにあたっては「さすがに52歳なんで厳しいかな、と。最初は無理だろうと思ったんですよ。俺自身はいろんな意味で“汚れてる”と。登場人物と親子ぐらい年が離れているけれど、僕が10代のときに持っていたコンプレックスとか、社会に対する違和感は、現代にも形は変わってもある、という信念があったので、そこを伝えればいいんじゃないかと思ったら、肩の荷が下りました」と自然体で臨んだという。
会見で出演者は口々に「パート2があったらぜひやりたい」と話していた。監督も「ぜひやりたい」と前向きだ。「みんな大学生になってまで、まだやってる(包帯を巻いてる)のかというところから始まるのがいい。今度はどこに巻きにいくのか、分からないですけど」と構想をふくらませているようだ。
堤幸彦(つつみ・ゆきひこ)監督プロフィル
1955年11月3日、愛知県名古屋市生まれ。80年にテレビ・ディレクターとしてデビューし、88年、オムニバス映画「バカヤロー!私、怒ってます」の「英語がなんだ」で初監督。映画公開後、拠点を米ニューヨークに移す。1年のNY在住中にオノ・ヨーコさん主演の「HOMELESS」を監督した。94年に現在所属するプロダクションの設立に参加。その後、「金田一少年の事件簿」(95、96年)、「ケイゾク」(99年)、「トリック」シリーズ(00年~)などヒットドラマを演出し、映画「トリック劇場版」(02年)、「恋愛寫眞」(03年)、「明日の記憶」(06年)などを監督。07年は「大帝の剣」「包帯クラブ」「自虐の詩」が公開された。08年は「スシ王子!銀幕版」(4月19日公開)、吉永小百合さん主演の「まぼろしの邪馬台国」(秋公開予定)、三部作の第一部「20世紀少年」(8月30日公開予定)を手がけている。
2008年2月29日