「図書館戦争」(アスキー・メディアワークス)がアニメ化され、注目を集めている有川浩さん。デビュー作「塩の街」から、「空の中」「海の底」と3作にわたり、陸海空の自衛隊がテーマになったラブストーリーを発表している。
新作の「ラブコメ今昔」は、文芸誌「野性時代」(角川書店)で発表された“自衛隊ラブストーリー”の短編を収録。「クジラの彼」(06年)に続く短編集だ。潜水艦を「クジラ」と例えた前作よりもストレートなタイトルで、“ラブ度”も高まっている。
表題作「ラブコメ今昔」は、陸自唯一の空挺部隊・習志野第一空挺団の大隊長・今村2佐の結婚のなれそめを、新任の広報官・矢部千尋2尉が取材しようとする。今村は二十数年前、上官の娘と見合いという“典型的なルート”を踏んで妻邦恵と結婚。二人の子供も独立し、夫婦水入らずというという家庭で、取材をきっかけに、今村が愛きょうのある見合い相手と結婚を決意するまでを振り返る、というほのぼのとした恋物語だ。
逃げ回る今村と追う千尋とのやりとりや、“天然”の邦恵と厳格な今村の会話もほほえましいが、若い千尋から「自衛官同士の結婚をどう思うか」とたずねられ、「辛らつになるが」と前置きして、常に有事を想定する自衛官の心構えを説く今村に、“武人”としての姿が見えてくる。
そのほか、航空自衛隊の花形「ブルー・インパルス」のパイロット夫妻の変わらぬ愛を描いた「青い衝撃」、海外派遣に参加する海自隊員と長距離恋愛する女性の思いをつづる「軍事とオタクと彼」、テレビドラマの撮影に協力する広報官と、テレビディレクターの奮闘ぶりが描かれる「広報官、走る!」など6編を収録。
「自衛官」という職業は特殊かも知れないが、任務を離れれば、恋もする普通の人々。自衛隊ものといっても、それぞれの作品で厳しい訓練や戦闘機や護衛艦などの装備も出てこず、登場人物の任務中の姿はほとんど描かれないが、何の変哲もない日常生活が淡々とつづられる。その中に、ほんの少しだけ「軍事」の現場が垣間見えるときに、その厳しさについての深い印象が刻まれる。
シリーズで何度も自衛隊を取材した有川さんは「ストイックな人たちにお会いして、私もストイックになります」という。そして「自衛隊に限らず、自分の力でしっかり立っている人たちはみな魅力的ですね。会って話しているうちに、この人はきっとこんな人生を歩んでいるんだなということが直感で感じ取れるんですよ。この人を何とかかっこよく書いてあげたいと思うんです」と語る。モデルとなった自衛官からは「まさかあんな形で小説になるとは」と感想が届き、「みなさん、ちょっと照れながら感想を話してくれるのがまた魅力的ですね」と話す。
巻末に収録された「ダンディ・ライオン~またはラブコメ今昔イマドキ編」は、あの今村2佐を追いかけ回した千尋のちょっぴり切なくなる不器用な恋物語で、きちんと今昔が締めくくられる。
有川さんは、一連の自衛隊シリーズは「しばらくは様子見」といい、「忘れかけていたころに戻ってくるようにまた書ければいい。そんなシリーズにしたい」と語る。そんなことを言わず、どんどん読ませて、とお願いしたくなる“あま~い”ラブストーリーだ。
◇「今や『ラブ』は欠かせない」」 作者の有川浩さん
「クジラの彼」に続く自衛官シリーズですが、今回も楽しく書けました。取材では出会う人はみな、誠実な人ばかりで、これまでの人生がはっきり見えるまっすぐな人たちでした。作家としてはお会いしていいものをもらった以上は何とかして自分の手でこの人たちをかっこよく書いてあげたいと思うもの。モデル小説ではないので触発されて沸いてきたイメージを書き連ねてみましたが、取材した方から照れながらお礼の連絡をくださったときはうれしかったですね。隊の中でも読まれているようです。
私の小説に今や「ラブ」は欠かせなくなってしまいました。ストイックな人たちの「ベタ甘」な恋愛小説を楽しんでください。
また、「図書館戦争」でもずっとコンビを組ませてもらっている徒花スクモさんによる表紙も見てほしいです。実は編集さんともかなりやり合った末に、私のアイデアを押し通したものなんです。各編をそれぞれ一冊の本に見立てたものですが、イメージ以上の仕上がりで、見本が出来たときは編集さんにも「ほらね?」とちょっとほこらしい気持ちになってしまいました。
「ラブコメ今昔」 有川浩・著、徒花スクモ・画 角川書店 1470円 6月30日発売
2008年6月29日