音楽インタビュー

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吉田拓郎 穏やかな日常に嘘なし

 「何事も頑張るのが基本でしょうし、頑張れと言ってくれる人に悪気はない。でも、そうは知りつつ頑張りきれない場合もある。そう言われると傷ついてしまう人も世の中には少なくないんだなと思った時に、これを歌おうと思いましたね」

 吉田拓郎は、先日(15日)発売になった6年ぶりのオリジナルアルバム「午前中に…」の1曲目「ガンバラナイけどいいでしょう」についてそう言った。

 70年代以降の日本の音楽シーンは吉田拓郎以前以後に分かれると言っても過言ではない。

 アンダーグラウンドな音楽と思われていたフォークやロックに市民権を与え、シンガー・ソングライターというスタイルを定着させ、演歌やポップスというジャンルの壁も越えた。コンサートツアーや数万人を集める野外イベントの形を作り上げ、レコード会社まで設立した。まさに激動の軌跡だ。

 「戦争だったですよ。業界だけじゃなく東京という街も含め、すべてが敵だった。何に対してとか、何に負けちゃいけないとか、それが自分に何になるのか、確固たる目標も目的も持たずにやみくもに日一日と目の前の新しい敵と戦ってましたから。その結果のある種の勝利感もあったんですが、勝った者は敗者になってはいけないし勝ったまま大きくならないといけない。疲れてましたね」

 肺がんの摘出手術と半年間のリハビリでツアーに復帰したのは57歳。還暦を迎えた2006年には静岡県掛川市の「つま恋」に3万5000人を集めた野外イベントを成功させたことは記憶に新しい。07年のツアーは体調不良で中止になった。新作アルバムは復帰第1作でもある。全10曲作詞作曲は25年ぶりだ。

 「病気や体調もあって、60を過ぎたあたりからアルバムはあと何枚とかツアーはあと何本、みたいな物の考え方になって。そうなった時に新作は書き下ろしじゃないといけないし、悔いのないものにしたい。今回のアルバムは全く嘘(うそ)がない。小さな日常ですけどこんな日々を過ごしてますと胸を張って言える。新しいヒントも見つけましたね」

 身の回りの出来事や日々の暮らしの中で思うこと。タイトルは「午前中にほとんどの事が決まる」から。久々の“ですます調”にも自然体を感じる。

 彼は自分の音楽人生について「最終章」と言った。6月からのツアーを最後に全国ツアーから撤退することも宣言した。

 「“頑張らない”と歌えたこともあるんだろうけど、これまでのしがらみやストレスから解放されてきている気がしますね。いきなり生まれ変わることはできなくても肩の荷を下ろすことはできる。ツアーが終わった時に何が見えてくるか楽しみなんですよ。音楽から離れるつもりはないし、家でゴロゴロしてるわけじゃないですから(笑い)」(音楽評論家・田家秀樹)

毎日新聞 2009年4月16日 東京夕刊

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