【北京・来住哲司】北京五輪第9日の16日、レスリングの女子55キロ級で吉田沙保里(綜合警備保障)が金メダルを獲得し、前回アテネ五輪に続く連覇を飾った。今大会の日本勢の金メダルは7個目で、このうち連覇は6個。女子48キロ級の伊調千春(綜合警備保障)はアテネ五輪に続く銀メダルを手にした。
吉田はアテネ五輪決勝の再現となった準決勝でトーニャ・バービーク(カナダ)を破り、決勝では18歳の許莉(中国)を一方的に攻めて第2ピリオドでフォール勝ちした。
伊調はアテネ五輪の決勝で苦杯をなめたイリーナ・メルレニ(ウクライナ)に3回戦で逆転勝ちしたが、決勝では07年世界選手権5位のキャロル・ハイン(カナダ)から主導権を奪えず、0-2で敗れた。
前回覇者の吉田は1月の女子ワールドカップで米国選手に敗れ、連勝が119でストップ。しかし、五輪本番では実力通りの強さを発揮した。
▽吉田沙保里の話 1月に連勝がストップ(119連勝)してから半年間苦しい思いをしてきたので、この五輪で借りを返そうと思っていた。伊調さんが負け、同じ三重県出身の(女子マラソンの)野口みずきさんは五輪に出られなかったので、金メダルをとりたかった。次のロンドン五輪で3連覇を狙いたい。
「無敵」の吉田が復活した。
昨年9月の世界選手権で5連覇したものの苦戦が目立ち、今年1月のワールドカップ(W杯)国別団体戦(中国・太原)で敗れて連勝記録が119でストップ。海外勢に研究されて「吉田包囲網」は狭まっていた。だが、その網を五輪の舞台で突き破ってみせた。
W杯の2日後に帰国した成田空港で、吉田は報道陣の取材を受ける最中に突然泣き出した。敗戦のショックを引きずる彼女に、全国から100件以上の励ましの電話やメール、手紙が届き、気持ちを癒やされた。「自分の知らないところで応援されていることを知り、みんなの心の温かさを知った」と吉田。
だが、栄和人・女子ヘッドコーチは「『悲劇のヒロイン』になってはだめだ」とクギを刺した。「同情され、励まされると優しい気持ちになる。闘争本能が次の目標に向かっていない」。恩師の言葉に吉田は目が覚めた。
得意の両足タックルを返されたのが敗因。それを防ぐため、タックルの仕方を基本からやり直した。
吉田は運動能力が極めて高いといわれ、実際に代表合宿のアップや基礎的な練習でも動きの良さはひときわ目立つ。だが、吉田にレスリングを教えた父栄勝さん(56)は「ずぬけて高いわけではない。他の選手は手を抜くから、そう見えるだけ」と指摘する。地道な練習にも常に真剣に取り組み、それが自信と勇気を生む。
この日は「恐れずにタックルに入ろう。返されても、もう一回入っていこう」と得意の両足タックルを連発し、一度も返されなかった。表彰台では「この半年間のこと、4年間のことが頭の中をぐるぐる回った」。7カ月前の悔し涙が、うれし涙に変わって吉田の両目からあふれた。【来住哲司】
毎日新聞 2008年8月16日 18時44分(最終更新 8月16日 22時14分)