日本の実力:自衛隊の戦力は適正か 軍事費は高額だが、有事の際の戦闘能力は未知数

2014年03月31日

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世界の軍事費

 ◇自衛隊は、じつは高コストの集団 

 スウェーデンのシンクタンク、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が2013年4月に公表した12年の世界の軍事費ランキングによると、日本は600億ドル(5.9兆円=13年4月現在のレート)で第5位、4位の英国とほぼ同額だった。1位はもちろん米国で、6820億ドル(約67兆円)と世界全体の軍事費の4割を占める。2位は25年にわたり2ケタの伸び率で軍事費を増大させている中国の1660億ドル(約16兆円)、3位はロシアで907億ドル(約8.9兆円)である。

 軍事費の総額だけ見れば、日本はたしかに軍事大国だが、対GDP比で見ると、米国の4.4%、中国の2.0%、ロシアの4.4%に対して日本は1.0%と、ランキングに掲載された15カ国中、最下位である。さらにその内実といえば、軍事費のうち人件費・糧食費が42%を占めるうえ、装備も高額なものばかり。ほぼすべてが国産で、武器輸出三原則があるために輸出によって単価を下げることができないからである。また、米軍に準じた高価な装備を揃えたがる傾向があるのも否めない。

 13年12月に閣議決定された「中期防衛力整備計画」(中期防)では、14年度から5年間の防衛費を総額約24兆7000億円とすることを決めた。前回、民主党政権下で10年に策定された中期防の総額23兆5000億円からすると1兆円以上の大幅増となるが、前述のような事情を考えると、それがただちに戦力の向上につながるかについては疑問符がつく。しかも同時に策定された「防衛計画の大綱」(新防衛大綱)では、陸上自衛隊の定員を今後5000人増やすことになっている。英国軍がこの3年間で2万1000人(12%)もの定員を削減し、人件費の浮いた分を兵器の研究開発に回しているのとは好対照である。

水陸機動団で尖閣は守れるか

 新防衛大綱は、中国の軍事的台頭と海洋進出に「強い懸念」を表明し、中期防も尖閣諸島を含む南西諸島防衛の強化を鮮明に打ち出した。

 警戒監視能力を強化するため、新型の早期警戒機に加え、無人偵察機グローバルホークを導入。さらに空自那覇基地に配備するF-15戦闘機部隊を倍増させ、次期戦闘機F-35と新空中給油・輸送機も導入する。また、ヘリに比べて速度・航続距離の面で優れ、離島防衛に活用できる新型輸送機オスプレイの導入も決まった。

 特筆すべきは、陸自に「島嶼(とうしょ)へ侵攻があった場合、速やかに上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力」をもつ、「水陸機動団」の新設である。そのための装備として、米海兵隊と同じ水陸両用車を導入、さらに空輸性・路上での機動性に優れ、戦闘地域への迅速な展開が可能な機動戦闘車を99両調達し、代わりに従来の戦車は削減する。

 だが、陸自がこうした“海兵隊”を持ったとしても、制空権を確保できなければ、離島の防衛も奪還も不可能なのは、太平洋戦争下のガダルカナル島攻防戦を例に出すまでもなく明らかだ。2013年、中国が東シナ海に防空識別圏を設定したのも、有事における制空権確保に備え、日頃からこの空域での航空優勢を維持しようとする意図の現れといってよい。中国空軍が保有する戦闘機の数は、空自をはるかに上回るうえ、近年では旧型機を退役させ、性能面でF-15を凌駕するともいわれるSu-30をロシアから購入、ライセンス生産も始めた。空自の次期戦闘機F-35は、17年以降に配備が始まる予定で、開発が遅れ気味なのが気になるところだ。

 水陸機動団の新設は、冷戦時代にソ連の着上陸侵攻に備えて北海道に戦車を集中配備してきた陸自が、南西諸島防衛で「海空重視」の傾向が強まったために、自らのあらたな存在意義を離島防衛・奪還作戦に見出したともいえる。だがそれとて、輸送や艦砲射撃、射爆撃といった海自・空自の支援なくしては不可能だ。新防衛大綱・中期防とともに策定された「国家安全保障戦略」(NSS)に明記されている「統合運用を基本とする柔軟かつ即応性の高い運用」をどう実現するかが、自衛隊の実力をはかるうえでの試金石となろう。

 ◇ミサイル戦にどこまで対応できるのか

 中国の海洋進出ともうひとつ、新防衛大綱が「我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」と規定したのが、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発だ。これに対応するため、中期防では、SM-3ミサイルを搭載し弾道ミサイルの迎撃能力をもつイージス艦を、現状の6隻から8隻に増強することにした。

 しかし、SM-3が弾道ミサイルを迎撃できるのは、弾道ミサイルがエンジンで加速・上昇する「ブースト段階」、大気圏外で慣性飛行する「ミッドコース段階」、切り離された弾頭が落下する「ターミナル段階」のうちの、ミッドコース段階である。米国本土へ向かうテポドン2(およびその派生型)のような大陸間弾道ミサイル(ICBM)であれば、ミッドコース段階も6000km以上になるので、時間的にも正確な弾道計算が可能となるが、日本のほぼ全域を射程に収める準中距離弾道ミサイル(MRBM)・ノドンは10分程度で着弾するため、確実に破壊できるとは限らない。

 テポドン2はまだ実験段階だが、ノドンはすでに300発程度を保有しているとされる。ターミナル段階での迎撃を担うPAC-3ミサイルは射程が20kmと短く、日本全土をカバーするには相当な数が必要になるが、新防衛大綱・中期防では増強の予定がない。

 一方、核弾頭保有数の多さや技術力・生産力などの面から見て、潜在的には北朝鮮以上に脅威なのが、中国の弾道ミサイルである。北朝鮮の核兵器は、まだ「小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できず」(防衛白書)という、はっきりしない段階だが、中国はすでに約240発の核弾頭を保有し、うち約180発が配備中だ。また米ロが持たない中距離弾道ミサイル(IRBM)や準中距離弾道ミサイル(MRBM)を多数配備しているのも特徴で、米海兵隊が沖縄からグアムに移転する理由の一つは、沖縄が中国のIRBMの射程内にあるからだという専門家もいる。

 現在、米ロにとって、敵の核攻撃をまぬがれる確率の高い核戦力の主力、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)についても、中国は最近「初期的な運用能力」を持つに至ったと、米議会の諮問機関が発表した。ただ中期防では哨戒機P-3Cの後継機で、速度・航続距離ともに優れたジェット哨戒機P-1の調達も本格的に始まる。対潜哨戒・戦闘能力が世界最高レベルにある海自は、静音性に優れた攻撃型潜水艦も保有しており、当面、日中間で衝突が起きたとしても、中国海軍のミサイル潜水艦を追い詰めることは難しくないといわれる。

 ◇敵基地攻撃能力の保有

 中国のミサイル戦力に関して、日米にとり将来の不安材料といえるのは、14年1月に実験をおこなったと伝えられる「超音速飛翔体」である。このミサイルは、ICBMに搭載されて打ち上げられ、大気圏内をマッハ5以上の超音速で滑空できるため、放物線を描く通常の弾頭とは異なり、着弾地点の予想が非常に困難となる。もし実戦配備されれば、自衛隊が運用するMDシステムのうち、少なくともPAC-3は無効化されてしまう。

 そこで14年夏には、空自に「航空戦術教導団」(仮称)を新たに編成、総隊司令部飛行隊に属している電子戦支援隊を教導団の下に移して「電子作戦群」とし、敵のレーダーや地対空ミサイルを無力化する電子戦の技術向上をはかるという。さらに第3航空団に属する航空支援隊も戦術教導団に移し、敵地に潜入して戦闘機の侵入ルートや爆弾投下のタイミングを指示する「爆撃誘導員」の養成もおこなうとみられる。

 安全保障環境が激変するなか、日本が、世界の軍事費の4割を占める米国との同盟を強化するのは、合理的な選択であるとはいえ、結局のところ、専守防衛という国是に則った防衛力整備を続けている以上、どれほど最新鋭の装備を揃えようと、北朝鮮や中国のミサイル攻撃を完全に防ぐこと、また米軍の支援なしに尖閣を防衛することは不可能なのである。政府もそれを意識してか、中期防では「弾道ミサイル発射手段への対応能力のあり方を検討し、必要な措置を講じる」と、間接的な表現ながら敵基地攻撃能力の保有を検討すると明記した。(日本の論点編集部)

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