くらしナビ・科学:実験用イモリ、自ら採集 学生引き連れ浅島・東大名誉教授「感動を原動力に」

2015年01月29日

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イモリ採集に臨む浅島誠・東京大名誉教授。手前の集水マスはイモリが好んで生息する場所だ=いずれも新潟県村上市で

 生命科学や基礎医学の研究に欠かせない動物。どの種を選ぶかは、世代交代の早さや扱いやすさが指標となる。ヒトと同じ哺乳類のマウスが代表格だが、浅島誠・東京大名誉教授(70)は長年、野生のイモリにこだわる。実験動物としてのイモリの魅力に迫った。

 ●がん治療にも応用

 「いた!」。昨年11月、新潟県村上市周辺で、浅島さんらは水路からすくいあげた泥の中から体長10センチ前後の生物を見つけた。日本の固有種、アカハライモリだ。その名の通り、腹には鮮やかな赤色の模様。採集に参加した北里大4年の小松麻衣さん(23)は「普段、イモリの卵を使って研究しているが、どんなところに生息しているか初めて知った」と話した。

 脊椎(せきつい)動物は、受精卵が細胞分裂を繰り返し、やがて体のさまざまな組織や臓器が作られていく。ヒトの場合、細胞の数は最終的に60兆個にもなる。

 イモリはカエルと同じ両生類だが、発生の初期段階は脊椎動物に共通すると考えられ、18世紀から実験動物として重宝されてきた。ドイツの生物学者、シュペーマン(1869~1941年)は、イモリの初期の受精卵(胚)を細い毛髪で縛って二つに分けても、それぞれが再び完全な胚になることを発見。その後の実験で、動物の全身の形が発生の過程で調節されながら決まっていくことを見いだした。

 浅島さんは、学生時代にシュペーマンらの成果に触れ、研究の蓄積が豊富なイモリを好んで実験に使ってきた。手足はもちろん、目のレンズさえも、失えば完全な形で何度でも再生する不思議さにも魅了された。イモリ研究は40年以上に及ぶ。

 1982年には、イモリの皮膚がんが冬眠中に治ることに着目し、生息環境の温度変化によって皮膚がんが治ることが実験で確かめられたと報告した。がんの温熱療法や低温療法につながる成果として注目された。

 ●遺伝子数、ヒトの10倍

 20世紀末以降、さまざまな生物の全遺伝情報(ゲノム)の解読が進んだ。ゲノムの大きさから、イモリの遺伝子数は、ヒトやカエルの約3万個の約10倍と推定される。イモリはカエルと同じ変温動物だが、浅島さんは「周辺の温度が10度程度変化しても、生存している。温度変化への適応能力や再生能力の高さには、遺伝子の多さが関連しているのではないか」と推測する。

 浅島さんと共同で研究している小畑秀一・北里大准教授は「多くの動物に共通する普遍的な仕組みだけでなく、再生能力など特有の性質を持つのがイモリの魅力」と語る。

 実験用のイモリが販売されているが、浅島さんは自ら採集することにこだわり、毎年2回の採集に学生も同行させてきた。「普段、研究室にこもっている研究者にとって、自然に触れる機会は貴重だ。参加者は自然を観察し、何かしらの発見をする。感動が研究の原動力になる」と理由を語る。参加した学生は、実験動物の飼育が丁寧になるなど、明らかに変化していくという。【須田桃子、写真も】

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