歌壇・俳壇
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定型の窓から
時代の大きな曲がり角=片山由美子
3/3 12:45 1264文字◇トランプの絵札のように集まって我ら画面に密を楽しむ 俵万智 ◇きのふとは一日限り鳥雲に 片山由美子 新型コロナウイルスが世界中に広がり始めて既に一年、感染予防をすべてに優先する生活が身についた。 ライフスタイルが大きく変わった人も少なくないようだ。自粛生活の間に“断捨離”を進めたという話をよく聞
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毎日俳壇
井上康明・選
3/1 02:02 352文字涅槃(ねはん)西風(にし)大樹は枝を広げたる 東京 熊坂清子<評>涅槃西風は、釈迦入滅とされる陰暦2月15日前後の西風。春寒の風に、芽吹きはじめた大樹の枝が影とともに揺れている。くろぐろと山かぶさりぬ薬喰(くすりぐい) 東京 徳原伸吉<評>薬喰は、冬、滋養のために鹿などをたべること。夕暮れの山を背景
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毎日俳壇
小川軽舟・選
3/1 02:02 329文字春隣犬の鼻先くろぐろと 香取市 多田ひろみ<評>濡(ぬ)れて艶(つや)やかな犬の鼻先を見てもうすぐ春だと感じる気分はわかる気がする。犬も春が近いと嗅ぎつけたみたいだ。ひらめきのレシピが楽し春隣 横浜市 牧野晋也<評>素材の意外な組み合わせや調味料。少々失敗しても、自分の料理だと思えば楽しい。牡丹(ぼ
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毎日俳壇
片山由美子・選
3/1 02:02 347文字春ショール鏡に見せるだけのこと 奈良 栗田秀子<評>どこへ出かけるわけでもなく、鏡の前で春ショールを肩にかけてみたのだが、「鏡に見せるだけのこと」が巧い。こんなにも小(ち)さきものまで蜆汁(しじみじる) 湖西市 宮司孝男<評>そもそも蜆は小粒だが、こんなに小さなものまで食べてしまうのかと哀れを感じた
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毎日俳壇
西村和子・選
3/1 02:02 343文字手を浄(きよ)め向ふ教室冬うらら 堺市 柞山敏樹<評>疫病禍の新たな習慣からも句ごころは生まれる。作者は講師。「浄め」の一語から清新な心が読み取れる。手のひらに泡立つシャボン春隣 加古川市 伏見昌子<評>こんなことにも季節感を覚える。日常からすくい上げる詩を大切にしたい。胸中に母のひと言雪涅槃(ゆき
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毎日歌壇
伊藤一彦・選
3/1 02:02 447文字あの頃はコロナっていうのが流行ってさ…そんな未来がいつか来ること 国立市 佐藤建<評>新型コロナウイルスの今後の行方がまだまだ心配だからこそ歌われた作。未来への希望をもつことで今日を生きぬこうと。春昼や大口開けて目を閉じて太陽飲んだ腹の底まで 東京 宇治きみとき<評>のどかな春を待望する歌だろう。「
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毎日歌壇
米川千嘉子・選
3/1 02:02 460文字イノシシの増えしとぞいう福浪線峠の熊笹さざめき聞こゆ 福島市 大槻弘<評>福島と浪江を結ぶバス路線、峠の熊笹の音に野生化して増えたというイノシシを思う。置き忘れられた多くの現実がある。生活と言えるんだろうか戦闘の前夜のような孤独な夕餉(ゆうげ)は 広島市 堀眞希<評>「戦闘前夜」は大げさだろうか。そ
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毎日歌壇
加藤治郎・選
3/1 02:02 486文字幻想の犀(さい)に降る雪やわらかで掬(すく)うとすぐに薔薇(ばら)に変わって 京都市 鹿ケ谷街庵<評>幻想の犀は寺山修司を踏まえている。結句の薔薇が魔法のように鮮やかである。白い世界に赤い薔薇が思い浮かぶのだ。あなたにはあなたの雪のわたしにはわたしの雨のゆうぐれのあり 垂水市 岩元秀人<評>あなたと
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毎日歌壇
篠弘・選
3/1 02:02 440文字使い易い部下を気楽に走らせて不意に転勤希望出されつ 東京 野上卓<評>現職中の衝撃の一つ。何かと雑用を押しつけてきた部員が、異動の希望を提出してきた痛手は、今も忘れられない。「老年性不安症候群」といふ病名もらひ米研ぐ夕べ 霧島市 久野茂樹<評>高齢者の原因不明のうつ状態で、目に見えた成果が上がるのを
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俳句のまなざし
3・11を忘れない=岩岡中正
3/1 02:02 653文字「俳句四季」3月号は「東日本大震災から10年――いま、思うこと」を特集。白濱一羊はエッセー「言葉の力」で、震災の記憶が薄れ政治の世界でも言葉の無力化が進みつつある中、あらためて私たちの言葉が試されているとする。堀切克洋は「原発事故から気候変動へ」で、自然や季節からの心の安寧や猛威を十七音詩で詠み止
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毎日俳壇
西村和子・選
2/22 02:01 346文字雨はまだ雪に変はらず夜半の風呂 所沢市 堀正幸<評>雪の予報が出ているのだろう。現状を述べていながら、いつ雪に変わっても不思議はない夜気の冷えこみを語っている。盆梅や思はぬ処から一花 我孫子市 森住昌弘<評>毎日手元に置いて開花を待っている盆梅なればこそ、意外なところに咲いた一粒はうれしい。一病に負
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毎日俳壇
井上康明・選
2/22 02:01 340文字風花のひとつ砕けてガラス窓 姫路市 板谷繁<評>「風花」は晴れている日、山から雪片が舞って来ること。そのひとかけらがガラス窓に砕け散る。窓に散る雪の結晶が思い浮かぶ。右中間飛球を追つて青き踏む 東京 吉田かずや<評>右中間とは野球場のライトとセンターの間の意。ボールを追い萌(も)え出た芝を走る草野球
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毎日俳壇
小川軽舟・選
2/22 02:00 332文字探梅の胸にトリスの小瓶かな 霧島市 久野茂樹<評>昔っからウイスキーはトリスと決めて変わらない。懐中に小瓶を忍ばせての探梅は寒さも忘れて最高の気分だ。なまはげに体育教師駆り出さる 久慈市 和城弘志<評>田舎の高齢化でなまはげ役も人手不足だ。大声で体力のある体育教師は恰好の人材。息白し怒りなかなか収ま
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毎日俳壇
片山由美子・選
2/22 02:00 329文字冬山の乾ききつたる谺(こだま)かな 鯖江市 木津和典<評>冬山が返す谺を「乾ききつたる」ととらえた感覚が鋭い。声に出して読むと、この句のもつ緊張感が伝わってくる。春一番走りて渡る交差点 神戸市 柴田いつ子<評>春一番に押されて走ったというより、身も心も軽くなった季節の明るさを感じさせる。探梅や阿騎野
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毎日歌壇
篠弘・選
2/22 02:00 473文字冬の夜の漁師の町の窓々の灯の寄り合いて一つとなれり 垂水市 岩元秀人<評>海岸線に沿って、点々としていた灯火が、夕闇が深まるにつれて、ひと連なりになっていく明るさは、感傷を誘う。高齢となりて就きたる職場にて新人いびりの洗礼受くる 玉野市 松本真麻<評>職域は造船所の洗面所など。冬に水を使う仕事は、な
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毎日歌壇
米川千嘉子・選
2/22 02:00 458文字午後八時フードコートが夢の跡明日の仕込みの音も静けく 福岡市 西田浩之<評>緊急事態宣言下夜8時で閉まるフードコート。短い昼間のにぎわいを「夢の跡」とも感じつつ、無言の仕込みが続く。羊羹(ようかん)を等間隔にスッスッと切る祖母の手が経てきた時間 横浜市 友常甘酢<評>着目点が面白い。羊羹を切る手際に
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毎日歌壇
伊藤一彦・選
2/22 02:00 455文字ごりんごりん、骨けづるやうな音なればオリンピックは誰のしあはせ 千葉市 芍薬<評>何のためのオリンピックかが問われている今を「ごりんごりん」の語呂合わせで歌う。「骨けづるやうな音」とは巧みだ。マスク顔一年かけて見慣れしか床屋の犬が尾を振って来る 静岡市 柴田和彦<評>マスクの顔に人同士も慣れたが、犬
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毎日歌壇
加藤治郎・選
2/22 02:00 480文字0匹の天使が床に降りて来て過失を告げる(告げない) さいたま市 緑川皐月<評>現代アートのような作品だ。天使は0匹で存在しないが降りて来た。過失を告げたのかどうか。宙吊(づ)りの世界である。昨日今日明日明後日もザクザクザクザク車いすはゆくのだ 札幌市 橘晃弘<評>雪の道だろう。迫力のある音である。車
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ことばの五感
ベッドサイドにて=川野里子
2/22 02:00 659文字・しばらくを付ききてふいに逸(そ)れてゆく カモメをわれの未来と思ふ 黒瀬珂瀾 このところ毎日同窓会を開いている。高校の同級生であるKがいま緩和ケア病棟にいて一日一日を大事に過ごしているからだ。コロナ禍で直接面会できないぶんオンラインなら自由に会える。 Kがまだいくらか自由が利き体力が残っていた時期
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点字毎日 点毎歌壇 嶋茂代・選
2/21 10:02 1168文字もうもくの われの せかいに せんは なし そらと だいちを くぎる せんさえ 長野県 広沢里枝子 【評】「せん」は人間がつくったもの、自然界には境界線はない。世界中に蔓延(まんえん)しているコロナ菌からさえもこれを学ぶことができる。「せん」とは何かを改めてはっと気づかせてくれる。かんとうか こら
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