荒れた人工林の中に入って手入れをし、その土地に本来あった木を植えていく--。八ケ岳南麓の標高1350の地で俳優の柳生博さん(72)は30年以上、雑木林を造り続けています。財団法人・日本野鳥の会の会長も務める柳生さんは、「人と自然が折り合いを付けて共生する森は、そこにやってくる鳥たちも機嫌よく暮らせる空間だ」と言い、「生き物たちの身になって考える。それが、環境問題の第一歩」と語ります。【聞き手・明珍美紀、撮影・橋本政明】
-都市化が進んだとはいえ、日本には生き物たちの宝庫である森が数多くあります。2016年夏の五輪に立候補した際、東京都が施設建設の予定地に挙げた葛西臨海公園(江戸川区)も、希少動物が生息し、渡り鳥の中継地にもなっているそうですね。
そうです。我々の言うエコロジーは、ややもすると人間側からの視点でとらえてしまう。CO2(二酸化炭素)排出量削減も大切だが、何のためにそれをやるのか。すなわち生き物たちの身になって考える。それが根底にないといけない。
-いまは生き物たちが機嫌よく生きられない。
でも悲観的なことばかりではない。北海道では道東の湿原で絶滅寸前だったタンチョウを繁殖させている。兵庫県豊岡市では、一度絶滅したコウノトリの復活に取り組み07年春、野生の状態では46年ぶりにひなが巣立った。今年は巣立ちも9羽になり、全部で35羽が自然界で生活している。コウノトリが35羽いるということは60~70年前の風景を取り戻したことになる。タンチョウも1300羽に増えている。
そこには農家を中心に「タンチョウやコウノトリと一緒に暮らしたい」という地元の人々の思いがあり、それをNGOや研究者が応援している。
-八ケ岳との出合いは中学生のときだそうですね。
我が家では代々、「13歳になったら一カ月の旅に出よ」という『掟』がありましてね。山に憧れていましたから、生まれ育った茨城県の霞ケ浦から八ケ岳連峰に旅立ち、赤岳のふもとの原生林で「生き物たちに囲まれている」と実感した。
それ以後も、仕事や結婚など何か決断をしなければいけないときには必ず森に来て、答えを出した。
僕は俳優としては遅咲きの方で、39歳のときに出演したNHKの朝のテレビ小説が当たって急に忙しくなった。自分でもバランスを失いかけ、精神生活の拠点を求めてカミさんと息子2人の家族4人で八ケ岳に移り住んだ。
-なぜ森づくりを。
日本の高度経済成長期にスギやカラマツやヒノキを植林し、それが放置されて荒れ果てていた。光の入らない森を間伐し、本来そこにあるべき樹木を植え、草を刈る。小さな森が息を吹き返してくるにつれ、僕自身も自分を取り戻してきた。少しずつ土地を買い足して雑木林を増やし、みんなが集まる場をつくろうと20年前の夏、レストランとギャラリーを併設した八ケ岳倶楽部をオープンした。
いまはスタッフが40人程度いて、東京の企業を辞めて来た若者もいる。ここで出会って恋をして、結婚したカップルもいてね。ここは恋が生まれやすいのかな(笑)。
2009年10月13日