<広げよう おはなしの輪>
目(め)が覚(さ)めたとき、太(た)郎(ろう)は、夕(ゆう)べなんだかおかしな夢(ゆめ)を見(み)た、と思(おも)いました。けれど、どんな夢(ゆめ)だったのか、どうしても思(おも)いだせません。その時(とき)、下(した)から「きゃあああああ」という叫(さけ)び声(ごえ)が聞(き)こえました。おばあちゃんの声(こえ)です。
「ど、どうしたの?」
太(た)郎(ろう)は、ぱっとはね起(お)き、階(かい)段(だん)をかけおりていきました。
「と、灯(とう)籠(ろう)が。石(いし)灯(どう)籠(ろう)が倒(たお)れてる!」
見(み)ると、中(なか)庭(にわ)の石(いし)灯(どう)籠(ろう)が、ごろんと横(よこ)倒(だお)しになっています。「おや、ほんまや。どうしたんやろ」と、おじいちゃんも、やってきて、首(くび)をかしげました。
「中(なか)庭(にわ)やさかい、だれか他(た)人(にん)さんが入(はい)ってくるわけ、ないし、地(じ)震(しん)もなかったしなあ。そういえば、このごろ、奈(な)良(ら)町(まち)のあちこちで、おかしなことが、起(お)きとるそうやないか。鬼(おに)のしわざや、いう人(ひと)がおるけど、もしかしたら、これもそうやろか」
「そ、そんな。いややわぁ、おじいさんまで」と、おばあちゃんは、露(ろ)骨(こつ)に眉(まゆ)をひそめました。
「きっと、倒(たお)れかかっていたのが、きょうになって、いよいよ転(ころ)んだんですやろ。そういえば、前(まえ)から少(すこ)し、傾(かたむ)いていたような気(き)もしますわ」
「そうやったかなあ」とおじいちゃんは、いつまでも首(くび)をひねっていました。
その日(ひ)は、なにも変(か)わったこともなく過(す)ぎましたが、夜(よる)になると、またキジが太(た)郎(ろう)のふとんの上(うえ)に乗(の)ってきました。太(た)郎(ろう)は苦(くる)しくて目(め)を覚(さ)ましました。
「なぁんだ、おまえか、キジ。重(おも)たいじゃないか。悪(あく)魔(ま)に乗(の)っかられたのかと思(おも)ったよ。あ、そうか、ぼく、こわがっていたから、そう思(おも)ったんだな。やっぱり、気(き)のせいなんだ」
「気(き)のせいじゃありませんよ。太(た)郎(ろう)さん。あなたには使(し)命(めい)があるんです。だから、ふつう、人(ひと)の目(め)には見(み)えないものが見(み)えるんです。聞(き)こえないものも、聞(き)こえるんです。さあ、わたしといっしょに、鬼(おに)退(たい)治(じ)に出(で)かけましょう!」
「お、鬼(おに)退(たい)治(じ)だってぇーっ?????」
目(め)が覚(さ)めたとき、太(た)郎(ろう)は、おかしな夢(ゆめ)を見(み)た、と思(おも)いましたが、どんな夢(ゆめ)だったのか思(おも)いだせません。その時(とき)、下(した)から「きゃあああああ」という叫(さけ)び声(ごえ)が聞(き)こえました。
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毎日jp(http://mainichi.jp/life/edu/yonde/)にも掲載
毎日新聞 2009年11月20日 大阪朝刊
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