決して型にはまらないユニークな発想と、独自の経験や見解を生かして始めた新ビジネスが、時代の波に乗りどんどん伸びてゆく街NY。新世代のファッションピープルたちが生み出した、気になるニュービジネスのお手並み拝見。(構成・文/海老名敦子)
21世紀型の新業態として今注目されているネットファッション。これは”理想と現実のボーダーライン“がなくなりつつある現代ファッションにぴったりマッチし、急成長を遂げている。
例えば90年代のスーパーモデルブームでは、現実離れした絶世の美人たちが皆のあこがれであり、すべての雑誌やメディアのカバーを飾っていた。しかし、現在アメリカのファッション誌の表紙を飾るのはセレブリティー。なぜなら、彼女たちはどこか一般の私たちに親近感を持たせる部分が多いからなのだ。つまり、以前ファッションに求められた”究極のファンタジー“はもう過去の遺物と化してしまったのだ。
服のスタイリングにおいても現代のおしゃれテクニックは、各アイテムがどこのブランドなのか、高価であるか、ということではなく、どれだけスタイリッシュか(自分らしく着こなしているか、トータルバランスがとれているか)に尽きる。さらに、シーズンごとの顕著なトレンドがなくなってきた分、さまざまな時代のイメージミックスを小物や色使いでうまく取り入れて着こなしに反映することが、必要最低条件となってきた。そんな時代のバイブル的存在のブログが、THE SARTORIALIST(http://thesartorialist.blogspot.com/)。
このブログはサンデー・タイムズではトップ6スタイルブログ(各種メディアで最も業界に影響力のあるブログ)として、取り上げられているもので、現在膨大に普及しつつあるネットファッションの草分け的存在である。THE SARTORIALISTは、簡単にいえば、日本の雑誌業界の売れ筋の定番といわれる、おしゃれスナップ特集号を、世界規模で日々オンライン公開しているようなもの。毎月最新号のファッション誌の発売を待たなくても、毎日世界中のスタイリッシュな人々の情報が手軽にチェックできる賢いツールなのだ。これなら、1日あたりのヒット数が18万というこの莫大な数字も、十分うなずける。ブログをチェックした後はオンラインストアで、気になる新着アイテムをチェックするのも現代の典型的なショッピングの醍醐味である。このように、ネットファッションは、24時間年中無休で世界各国からアクセスできるという、出版物やテレビ、リテイラーにはない、便利で素早いトレンドキャッチの情報源として消費者に絶大なインパクトを与え、愛されているのだ。
自分自身に置き換えても、今テレビを見ることはほとんどなく、見逃した連続ドラマは各放送局のウエブサイトで再チェック。見たいビデオはU-tubeで楽しむ。店舗でサイズ切れで買えなかった商品はネットで購入。ネットのスナップページからスタイリングのトレンド情報入手など、と自分でも驚くほど、インターネットをとりいれた生活にどっぷりはまっている。こういった手軽さは、現代の”溢れる情報の中で生きる快感“や”ファストフードになれ親しんだ世代“の消費者の心をくすぐる。
THE SARTORIALISTのブログを、ファッション業界に携わる人々がインスピレーションとしてこよなく愛するように、いまやファッションは、ストリートの風を感じさせるスタイリッシュなイージークローズ(かっこ良く着心地の良い服)を、消費者が求める時代になった。今シーズンその”気分“をまさに表現していたのがアレキサンダー・ワンとトリー・バーチ。もともとリアルクローズ(実際に人が着られる日常着)として世界に名高いアメリカンアイテムを、スタイリングやデザインで進化を加えたとても新鮮なコレクションだった。彼らの商品は従来の流通チャンネルに加え、アメリカで人気の高い品ぞろえ型インターネットリテイラーのshopbop.comやREVOLVEclothing.comなどでも購入可能。ネットファッションという新業態とのつながりも十分整えているのも今どきのデザイナーらしい。
リーマン・ショック後の打撃が著しかったNYファッション業界。経済の低迷が大幅に見え始めた今年の2月のNYコレクションでは、黒系の少しきつい印象のミニマムな服が目立った。いわゆる着回しの利く、プレーンなスタイリングの連続。個人的に「不況になるとこの手の服がはやるな」と、日本のバブル崩壊時を思い出しながらショーを見ていた。そして、どうなることやらと思っていた今年9月のコレクションは、期待を大きく裏切ってくれたデザイナーたちに拍手を送りたい気分になった。すべてのNYデザイナーのベストコレクションだったといっても過言ではないだろう。よく”不況時代にはアート、アンダーグラウンドカルチャーとクリエーティビティーがよく育つ“といわれるが、まさにその通り。どのデザイナーもありったけの想像力を発揮したアイデアを、華やいだ明るい気持ちにさせるさまざまな色やプリントなどで表現していた。窮地に追いやられたときにくじけず、明るく前向きに現状をとらえ、それに向かって底力を出せる”人ヂカラ“を思い切り発揮しており、移民がつくり上げた国アメリカらしい力強さを感じた。経済の破綻とともに訪れた新しいビジネス業態である、ネットファッションという強い味方を加えて、日新月歩の進化を続ける次なるアメリカのファッション業界の今後のチャレンジに、こうご期待だ。
Scott Schuman(写真左)。15年間ファッション業界で活躍後、写真家に転身。鋭いファッションセンスを生かしたブログで、世界的な注目を浴びるスーパーブロガー&フォトグラファーに。今年英国にてTHE SARTORIALISTの写真集も発売された(写真右)。
レディースとメンズを取り扱い400以上のブランドが常にオンライン上で購入可能なネットショッピングサイト。購入商品は世界中にシッピング可能で、国内返品の送料はフリーと、至れり尽くせりのサービスも、品ぞろえの良さに加え人気の秘密。
ブライアント パーク内では初のプレゼンテーションを行ったトリー・バーチ。2010年春夏コレクションは、ウイリアム エグルトンのカラフルな写真がインスピレーションの元。購買意欲をそそる好感度の高い、若々しくアメリカン クラシックなスタイルが目白押し。
モデルのオフ デューティ スタイル(休日着)的な、アーバンシックな服の数々を生み出す、現在大注目のNYデザイナー。2010年春夏コレクションでは、完成度の高いモダンなアメカジスタイルを発表。
◆Atsuko Ebina
青山学院大学経営学部卒業。資生堂ブティック ザ・ギンザにてプレス、バイヤーを経た後、(株)ダナ キャラン ジャパンにてPRマネージャーとして経験を積む。2003年NYに渡米。NY市立大学バルーク校にてプレMBA取得後、長期にわたるファッション業界での経験を生かしビューティ&ファッションのジャーナリストに。現在日本の雑誌や新聞などの媒体を中心に活躍中。NY在住。
2009年10月26日