前回、かみ合わせのセルフチェックができる「咬合(こうごう)スコア」を紹介したところ、大変反響がありました。「全く問題がないと思っていたのに、かみ合わせが悪いかもしれないと知って驚いた!」という方もいます。スコアに問題があったにもかかわらず、「痛みなどがないから」と放置しておくと、状態はどんどん悪化し、「かめなくなる」「口がうまく開かなくなる」などのトラブルが出てくることがあります。
例えば歯が一本なくなってしまった場合、最初は違和感がありますが、次第にその状態に慣れてきて、それなりに食べられるようになってきます。しかし、無理なかみ合わせで食べているとやがて周囲の健康な歯にも負担がかかってきます。歯がもろくなったり、歯の位置が動いたり、さらには、あごの関節などにも問題が起きて大がかりな治療が必要になったりします。
ですから、チェックで「問題がある」と出た方はできるだけ早くかみ合わせに詳しい歯科を受診しましょう。かむ機能を取り戻すことでQOL(生活の質)が向上することはもちろん、顔かたちも変わり、生き生きとしてきます。ある女性は前歯の歯並びの悪さが気になって受診されました。歯並びの悪さの主な原因は歯周病でした。奥歯が安定しないため、前歯に力がかかりすぎた結果です。そこで歯周病の治療とともに、矯正装置による治療を開始しました。矯正終了後、歯並びの悪かった前歯4本にセラミックスの白い歯を装着した結果、かみ合わせが安定し、口元も美しく、全体に若々しい印象になりました。初診時の咬合(こうごう)スコアも30点から3点になりました。
反対咬合(受け口)に悩む男性(26歳)は、あごの痛みに悩まされていました。「ものがうまくかめない」「しゃべりにくい」などのトラブルも抱えていました。そこで「矯正治療」を行うことになりました。男性の反対咬合には骨格の問題があり、外科手術も視野に入れましたが、ご本人の強い希望で手術はせず、矯正装置のみで様子を見ました。これがうまくいき、あご関節症を含むさまざまな不調も改善されました。咬合スコアは30点から3点になりました。
なお、咬合スコアは、子どもは対象外となりますが、親御さんはときどきお子さんの口腔(こうくう)内の様子に目を配り、「口が開きにくい」「うまくかめていない」などの兆候があれば、ぜひ歯科に連れて行ってあげてください。できれば、かみ合わせに詳しい小児歯科がよいでしょう。簡単な装置でかみ合わせを改善させる「咬合誘導」などが積極的に行われています。
成長発育の段階において、栄養の摂取は何より大切です。近年、子どもの食が乱れているといわれる中、体に効率的に栄養を取り込むためにも正しいかみ合わせが欠かせません。咀嚼(そしゃく)は免疫力とも深くかかわっているといわれます。新型インフルエンザをはじめ、さまざまな感染症に負けない体をつくるためにも、「しっかりかむこと」は重要といえるでしょう。
日本顎(がく)咬合学会では今後もかみ合わせの大切さを啓発するとともに、国民の皆さんの健康を守るための歯科治療に熱心に取り組んでいきます。(日本顎咬合学会・上濱正)
上濱正さん 日本歯科大生命歯学部卒。明海大歯学部臨床教授。日本顎咬合学会常任理事。ウエハマ歯科医院(茨城県土浦市)院長。
2010年1月12日