花王が今月8日、エコナ(食用油)の特定保健用食品(トクホ)の表示許可を自主返上したことで、改めてトクホへの関心が高まった。トクホの有効性や安全性を審査する仕組みはどうなっているのか。トクホ返上劇で浮かび上がった課題についても考えた。【小島正美、山田泰蔵】
トクホは「血圧の上昇を抑える」「おなかの調子を整える」など特定の健康効果が期待できる食品。病気の予備軍にあたる人がトクホを選びやすいように国が審査して効果にお墨付きを与え、製品にマークを表示できるようにした。91年に始まり、今年8月末で894品目が許可・承認を得た。
9月からは、許可業務が厚生労働省から消費者庁に移管された。トクホを申請する企業は、食品安全基本法と健康増進法に基づき、有効性や安全性に関する各種試験データを保健所経由で消費者庁に提出、このあと、消費者庁の監視役の消費者委員会と内閣府食品安全委員会が審査し、最終的に消費者庁が許可するかどうかを決める。
有効性の試験は人を対象にした試験が必須で、安全性も各種毒性試験が課せられ、申請には1億円以上の費用がかかるといわれる。
たとえば、エコナの場合、ネズミに食べさせる毒性試験のほか、人が通常の約3~5倍の量を1~3カ月間食べ続けて安全かどうかなど六つの試験が審査された。マヨネーズタイプの申請時(03年)にはイヌやネズミでの発がん性試験なども審査された。
「体に脂肪がつきにくい」効果で02年にトクホを取得した別の食品大手メーカーの食用油の場合も、ネズミやブタを使った慢性毒性や発がん性、催奇形性試験などが審査された。
こうしたことから、消費者庁は「医薬品並みとはいかないが、通常の食品に比べれば、有効性や安全性に関する確認試験はしっかりと行われている」と話す。食品安全委も「データが足りなければ、追加試験を求めるなど審査は厳しく行っている」という。
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ところが、今度のトクホ返上問題では許可されたあとに健康への懸念が生じた。食品安全委の評価結果が出る前の段階で、適切な措置がとれない制度上の不備が浮かび上がったわけだ。
消費者問題に詳しい細川幸一・日本女子大准教授(消費者政策)は「いまのトクホの審査では許可業務に関する法的規定はあるが、何か問題が生じたときの一時的な許可停止など、許可後の規定がない」と法的な不備を指摘する。
トクホはいったん許可されると、無期限に有効なため、再評価の機会がない。農薬取締法では登録される農薬は3年ごとに登録が更新され、その都度、安全性が再評価される。阿南久・全国消費者団体連絡会事務局長は「人の健康にかかわるトクホも、農薬と同様に定期的に再評価する仕組みが必要だ」との要望書を今月5日、消費者庁などに提出した。
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今回は、食品安全委の評価結果や消費者庁の最終判断を待たずに、花王がトクホを返上したが、消費者庁は独自判断で許可を一時停止できるような制度改正も検討している。その場合、あとで問題がないと分かったときの企業への補償措置も課題となる。日和佐信子・消費者委員会委員(雪印乳業社外取締役)は「企業に補償する補償基金をつくっておけば、冷静な議論ができる」と補償基金の設立を提案する。
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一方、EU(欧州連合)の食品安全機関(EFSA)は、健康食品に関し、科学的な根拠が明確でない限り、健康効果の表示を認めない動きを強めている。日本のトクホの有効性に関する科学的根拠は国際的な水準で判断すると甘いといった専門家の声も出てきた。
福島瑞穂消費者担当相は廃止も含めトクホ制度を抜本的に見直す考えを示している。しかし、健康ブームに便乗した食品で虚偽表示が多発する現状で、一定水準を満たしたトクホの役割を評価する声は多い。市場規模も大きく、廃止には反対論も根強い。このため、消費者庁は近く関係省庁や専門家、消費者団体などによる検討会を設置し、来年3月までに論点を整理する方針だ。
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今年6月、花王の特定保健用食品「エコナ」に発がん性物質に変わる可能性のある不純物が含まれていることが判明。食品安全委員会が安全性確認を進めたが、花王は9月16日、同委の結論を待たずに販売自粛を決めた。トクホには許可の一時停止規定がないため、販売自粛後も「健康にいい」という国のお墨付きが残る矛盾が生じた。このため、消費者庁は前例のない再審査手続きに着手、これを受けて花王がトクホを自主返上した。食品安全委による安全性の確認は、さらに時間がかかる見通し。
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(1)おなかの調子を整える
(オリゴ糖類、乳酸菌類、食物繊維類などを含む食品)
(2)コレステロールを正常に保つのを助ける
(3)血圧が高めの人
(4)ミネラルの吸収を助ける
(5)骨の健康が気になる人
(6)むし歯の原因になりにくい
(7)歯を丈夫にする
(8)血糖値が気になり始めた人
(9)中性脂肪、体脂肪が気になる人
※「高血圧を改善する」「血糖値を改善する」など医薬品の効能に相当する表示は認められていない
毎日新聞 2009年10月27日 東京朝刊