間もなく100歳を迎える詩人、まど・みちおさん。アルツハイマー病と診断され入院中だが、11月には新作詩集「のぼりくだりの……」(理論社)を刊行、抽象画にも取り組む。白寿の現役詩人を訪ね、衰えを知らないエネルギーの源に触れた。【聞き手・木村葉子】
■長寿の秘けつ
肉は一切食べません。青魚は好きです。油物を控え、野菜をたくさんとる。心が病気するかしないかが本当の健康かどうかですね。長生きしたい人に勧めるのは、ちょっとでも家族に会い、ニコッとすることです。
ボールペンと定規を使い、調子の良いときは1、2時間集中して10枚近く絵を描くこともあります。大きな丸の中に小さい丸をいくつも描いたり、三角形に丸を組み合わせたり。ハートを描くのも好きです。「愛」という意味が一目でわかりますね。何かが好き、誰かが好きということは失うことのない、一番大切なことです。
題をつけると作品になるんですが、これが難しい。作品が生きるか死ぬか決まってしまいます。今描いているものはいずれ題をつけて、画集にまとめるつもりです。
■新作詩集のこと
どれが一番好きかというと、他の作品に申し訳ありません。読んだ人に決めてもらうことです。
『うーむ』
日本と…
ウズベキスタン
とのサッカー戦は
1対1だったが
TVなどでも
勝った勝ったと
その場面を
やたらやるばかり
でとうとう
いつ負けたんか
ワカラズじまいで
こんな年寄りは
軍国主義という
言葉を思い出す…
ほどでもと
いいたいんだがもう
思い出してる
証拠かな
うーむ…
日本人は今のことに夢中になりすぎ大喜びします。負けたことを認められない。私も軍国主義に協力しかけました。醜いことです。
今も、世界のどこかで戦争をしていない日は一日もありません。着る物も食べる物もない人を助けたい。苦しんでいる人のことを考えずにはいられません。
『しつもん -うけこたえ-』
スキキライは?
おおあり
どっさりと…
スキなヒトは?
ぜんぶ
じぶんいがいの…
キライなヒトは?
ナイつもり
あるけど…
なぜいえない?
おくびょうで
おっかなくって…
この詩は私の生活に通じているんです。すごく大好きな人でも、逃げ出したいと思う。そばへ行って、がっかりさせてしまうことが怖いから。
夏、花火大会があって、病院の屋上から大きく見えました。花火がぱっと出た後に音が聞こえる。ずれるところが絶妙。花火そのものよりも、この間(ま)が美しいように思われるんです。
『ハックショイ!』
今オレは
何シタインか
ワカランと
かきながらもう
前かいたんと
ダブッテル
というほか
なくなってる
アホラシさに
ナミダされてか
かきやめん
なおも…
まっ白くひかる
ぎんのアゴひげ
ひねくりまわし
そのホコリを
ホコリにハッ
ハックショイ!
医師から「立派なアルツハイマーだから、無理してはいけない」と言われています。家族に会わないと、このまま自分はあの世に行ってしまうのかと恐ろしくなってしまう。でも顔を見るとホッとしますね。
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■人物略歴
本名・石田道雄。1909年11月、山口県生まれ。19年に台湾に渡り、台北工業学校卒業後、童謡詩を作り始める。33歳で召集され、戦地へ。戦後は幼児雑誌を編集する傍ら「いちねんせいになったら」など多くの童謡を発表。52年にラジオ放送された「ぞうさん」(作曲・団伊玖磨)は国民的な愛唱歌になった。92年には詩集絵本「どうぶつたち」が皇后さまの英訳で海外にも紹介され、94年、児童文学界のノーベル賞と評される「国際アンデルセン賞作家賞」を日本人として初めて受賞した。
毎日新聞 2009年10月23日 東京朝刊