医療を長期的に必要とする方が利用している療養病床。その療養病床の削減が問題となっている。厚生労働省が、高騰する医療費を減らそうと、2006年現在38万床ある療養病床を12年までに4割にあたる15万床程度に減らす方針を発表した。その後、削減計画は一部緩和されたが、依然大量の医療・介護を必要とする人が発生するとみられ、深刻な問題となりそうだ。こうした医療と介護の問題について、社団法人・全国有料老人ホーム協会事務局次長の五十嵐さち子さんから話を聞いた。
国が療養病床を減らすことにした背景には、年々高騰する医療費があり、その原因の一つとして、現在病院に入院している高齢者の患者の中には、高齢者が1人暮らしで自宅に戻っても面倒をみる人がいないなど社会的要因で入院しているケースなどがある。そうした療養病床の維持には月額40万円近くもかかるので、医療処置が必要でない人は自宅へ戻ったり、別の場所へ移ってほしいということだろう。
一方、削減対象となる病床数だけの問題でとどまるかというと、一概にそうともいえない。病院としても入院が3カ月を過ぎると、医療保険からの収入が減ってしまうため、長期入院者は、次の病院を探すようにも求められたりする。こうしたはざまの人たちがどこでどう生活していったらいいのか、難しい問題だ。特に1人暮らしの人は、家族の介護も期待できないし、どうしたらいいのか。こうした行き場所のない人が「医療難民」となってしまうのだろう。国としても、「在宅時医学総合管理料」という制度を設けて、1人暮らしで寝たきりの人への往診を普通より手厚い報酬にしたりするように対策を立ててはいるが。
有料老人ホームでは、協力医療機関を定め、ホームには看護師の配置が求められているが、医療の必要な要介護者の受け皿として成り立たせるには、まだ課題がある。例えば糖尿病治療のためのインスリン注射は、患者の家族は行えるが、ホームの看護師は医師の指示がないと行えない。素人の家族ができるのに、看護師ができないのはおかしいと思うが、昔はそういうことが予見されていなかったのだろう。現実問題として、入居者がそういう状態になったとき、ホームがどこまで対応できるのか、模索中の段階だ。厚労省も特別養護老人ホームの看護師やヘルパーに医療にあたる一部の行為をさせるという試みもしつつある。看護師らにどこまで委ねるのか、制度として早急に整備する必要がある。
ただし、そのためには、ヘルパーたちには教育や研修も必要だし、時間もかかる。有料老人ホームという生活の場で、入浴、食事、排せつといった介護のサービスと共に、身内なら行える医療行為を可能にするためには、越えなければならないハードルは高い。
有料老人ホームでは、協力医療機関から医師が週に何度か来て常日ごろから健康相談などで入居者をみているので、状態の変化に早く対応してもらえ、入居者も安心して生活できる。
ある調査によると、8割以上の人が病院で亡くなるという。だれにどこでみとられて死ぬかは、医療や介護と同じく極めて大切なこと。大家族に見守られて大往生するのが理想だが、現実には難しい。
医療・介護難民をなくすために、理想的な解決方法は難しいが、財政を考えなければ、特別養護老人ホームや老人保健施設など公的な施設をたくさん造り、国の責任ですべて行えば、安心かもしれない。だが、土地代ひとつとっても大変。地方自治体も財政が厳しい。本来福祉施設である特養に入居待ちの人が何百人もいるのは、健全な社会とは言い難いのではないか。国民の権利としてどこでも同じように生活ができるようにするのが理想だが、そのために解決すべき課題は山ほど残っている。
毎日新聞 2009年10月30日 東京朝刊