
上からではなく下から目線で、不安と惑いをつづった紙つぶてを投げてみたい――。吉井理記記者のコラムです。
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新防衛相と「教育勅語」=吉井理記
2023/9/27 13:00 902文字新防衛相に木原稔氏が就任したことに、少なからず驚いた。 2016年に取材した。永田町の事務所には、教育勅語の全文と三島由紀夫の「行動」の揮毫(きごう)を掲げていた。木原氏は「(三島を)尊敬している」と話した。 一時期、日本大学の小野雅章教授ら専門家の教えを受けつつ、教育勅語のことをかなり調べたこと
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いささかも変わりません=吉井理記
2023/9/20 13:10 878文字ん? どこかで聞いたぞ。 大半のメディアが長年放置してきたジャニー喜多川氏の性加害問題について、NHKが8月30日に出したコメントである。 <NHKは(中略)性暴力について、「決して許されるものではない」という毅然(きぜん)とした態度でこれまで臨んできたところであり、今後もその姿勢にいささかの変更
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歴史修正国家の誕生=吉井理記
2023/9/13 13:20 903文字「虐殺」は、英語で「massacre」と記すのが一般的だ。 例えば、日中戦争さなかの1937年12月13日の前後、中国国民党政府の首都・南京を陥落させた旧日本軍が、多数の中国軍捕虜や市民を殺害した事件では、2日後の12月15日に世界で初めて事件を報じた米紙シカゴ・デイリー・ニューズには「NANKI
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「壁」とよばれた少年=吉井理記
2023/9/6 13:11 917文字埼玉県上福岡市(現ふじみ野市)の中学1年の少年が市内のマンションから転落して亡くなったのは1979年9月9日だった。 級友や部活の上級生からの暴力を含むいじめを苦にしての自死だった。当時の報道によると、少年は「壁」とあだ名されていた。 背景には根深い問題があった。少年は在日朝鮮人3世で、級友は「朝
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「アジア解放」は本当か=吉井理記
2023/8/30 13:23 912文字仕事がら、右派論壇もチェックする。「Hanada」「WiLL」といった論壇誌には必ず目を通す「愛読者」を自任している。 その「Hanada」電子版に先日、自民党の和田政宗参院議員が寄稿し、「先の大戦」は「アジア諸民族の独立解放のための戦い」と書いていた。 右派論壇では特に珍しい主張ではない。先週の
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8月15日、靖国の風景=吉井理記
2023/8/23 13:02 932文字8月15日は靖国神社を訪れるようにしている。この国の世相の一断面が見えるからだ。 言うまでもなく旧日本軍の軍人・軍属らをまつり、顕彰する神社である。先に断っておくが、僕のは訪問であって参拝ではない。 戦争犠牲者を悼む気持ちはあるが、この神社に参拝することが全てではないし、合祀(ごうし)されている戦
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「犯罪者」は誰か=吉井理記
2023/8/16 12:59 908文字昨年7月に始まった貴志祐介さんの連載小説「兎は薄氷に駆ける」(挿画はサイトウマスミさん)が本日の第324回をもって完結した。冤罪(えんざい)をテーマにした社会派ミステリーである。 せんえつながら貴志さんの担当をさせてもらった。冤罪事件に詳しい弁護士を一緒に取材したり、主人公の職場である自動車整備工
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長崎原爆忌に思う=吉井理記
2023/8/9 13:21 893文字78回目の長崎原爆忌である。 祖母の妹、つまり大叔母も犠牲になった。長崎市内の軍需関連工場に働きに出ていて、あの午前11時2分を迎えた。 広島を地元とする岸田文雄首相が「核兵器のない世界」を掲げているのはご存じだろう。著書「岸田ビジョン」には、「核なき世界」を唱えて2009年のノーベル平和賞を受賞
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娘との対話=吉井理記
2023/8/2 13:01 858文字私事で恐れ入る。 いや、私事ですまない問題をはらむ気もする。だから書く。 娘が2人いる。保育園に通う長女は5歳。先夜、自分の人形を2歳の妹に取られた、とぷりぷりしながら訴えてきた。「じゃ、お父さんがさーちゃん(妹)をメッてしかっておくね」とうなずいてみせると、意外にも首を振った。 「ダメ。だって、
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金子兜太さんの絶句=吉井理記
2023/7/26 13:05 888文字♪夏がくーれば思い出す……と歌われたのは尾瀬の高原だが、僕は2018年に98歳で亡くなった俳人、金子兜太さんの丸い顔が目に浮かぶ。 あれは9年前の、ちょうど今ごろのこと。「日本一暑い街」とされる埼玉県熊谷市のご自宅にお邪魔し、長時間インタビューした。 旧東京帝大から海軍経理学校を経て、戦中は海軍基
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沈黙の7月7日=吉井理記
2023/7/19 13:07 884文字今年の7月7日もいつものように過ぎていった。 七夕の日だ。今年に限れば、銃撃事件で昨年死去した安倍晋三元首相の一周忌の前日ということでもある。新聞やテレビは事件を振り返る特集を量産した。 もちろん、それは大事な報道テーマだ。でも、1937年のこの日に日中戦争が始まったことは、今年もメディアはスルー
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防衛大で起きていること=吉井理記
2023/7/12 13:12 896文字ちょっと肩の凝る話だが、ぜひ読者に知ってほしいことがある。 防衛大学校教授、等松春夫さんが6月30日、集英社オンラインのインタビューに答え、防大の内情を告発して波紋を広げている(https://shueisha.online/culture/142994)。 等松さんは防大の教壇に立って14年。国
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「安倍慰霊碑」に刻む言葉=吉井理記
2023/7/5 13:11 885文字間もなく一周忌を迎える安倍晋三元首相の慰霊碑が、有志の手で奈良市に建てられた。碑には「安倍氏が好んだ言葉」だという「不動心」が刻まれた。 建立に異論を差し挟むつもりは特にないのだが、碑に刻まれるべき「好んだ言葉」は、他にある気がする。 例えば「政治は結果責任」「安倍政権は結果を出してまいります」な
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墓地にたたずむ=吉井理記
2023/6/28 13:07 879文字ひそかな趣味が生まれた。 墓地歩きである。 著名人の墓を訪ね歩く人は多いそうだが、それとは少し違う。公営の霊園などに眠る見知らぬ故人の墓を散策するのだ。 なぜそんなことをするのか? 僕だって子どもの頃は、小学校の図書室で借りた水木しげるの妖怪本などを寝る前に開き、夜の墓場には死者の霊やひとだまが出
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今国会達成の「新記録」=吉井理記
2023/6/21 13:06 883文字いろいろヒドいことがあった今国会だが、ひそかにある「記録」が達成されていた。 気を持たせる話でもないが、「台湾有事」という単語が史上最も多く登場した国会だったのだ。頑張って数えた僕を、誰かほめてくれないだろうか。 国会審議での初出は1997年6月の参院外務委員会だ。日米安保条約の適用範囲を巡る議論
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司馬さんが恐れたこと=吉井理記
2023/6/14 13:08 866文字先日、元NHKプロデューサーの北山章之助さん(86)と久しぶりに話をして、やはり書いておこう、と思った。 「保守」誌の月刊「WiLL」3月号「司馬遼太郎生誕百年『坂の上の雲』に学ぶ 戦える日本」について、である。 まず北山さんの紹介から。「NHKスペシャル」を立ち上げ、多くの特集番組を作った放送界
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「耐える」のは美徳か=吉井理記
2023/6/7 13:04 878文字物価高に防衛増税でうんざりしていたら、まだ、うんざりの続きがあった。 今度は働く人が支払う社会保険料である。岸田文雄政権は少子化対策の財源として「国民1人あたり月500円程度」の負担増を検討しているらしい。5月25日の本紙朝刊が伝えた。 月500円なら何とか……と一瞬思ったが、1年では6000円。
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ちょっと同情、稲田さん=吉井理記
2023/5/31 13:08 901文字仕事柄と言っていいのか迷うのだが、ネット上などで「反日」「売国」といったたぐいの悪罵を頂戴することがある。 どんな時か。僕の体験では主として二つのパターンがある。まず南京大虐殺(南京事件)や関東大震災時の朝鮮人虐殺など、日本の負の歴史を書いた時。もう一つが、故安倍晋三元首相とその後継政権を批判した
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世界が日本をうらやむ日=吉井理記
2023/5/24 13:06 892文字自分の本棚を他人に見られるのは恥ずかしい。蔵書には、自分の「素」がにじむからだ。 それゆえ、自宅でパソコンを使ったリモート取材をする時などには細心の注意がいる。僕の場合、書棚の中央を占める「美味しんぼ」などの愛蔵の漫画は脇に寄せ、ハードカバーの重厚な本がウェブカメラに映り込むように調整している。こ
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本能寺の変はなかった?=吉井理記
2023/5/17 13:14 901文字織田信長が倒れた「本能寺の変」は本当にあったのか? のっけから、奇妙な問いで恐縮だが、タイムマシンがなくとも、歴史学者が信長側近の記録や旧大名家が私蔵する文書類などの資料をもとに研究を重ね、「あった」という結論は揺るがない。 だから文部科学省の指導のもと、教科書も記述している。政府が信長らについて
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