太陽風にはがされた大気
先々週の「三つ子の星-金星編-」で話したように、金星は地球の100倍もの大気に包まれているわけですが、実は火星には反対に地球の100分の1くらいしか大気がないのです。地表の水も枯れ果てています。しかし、かつては分厚い大気層と大量の水があったと考えられていて、NASA(アメリカ航空宇宙局)は火星から大気がなくなった理由を調べてきました。
NASAが2013年に打ち上げた火星探査機MAVEN(図1)が、ついに確からしい理由を突き止めた模様です。MAVENが目的としたのは、そのものずばり「火星大気観測と太陽風の関連」の研究。火星を周回しながら獲得した観測データを分析した結果、太陽系の初期に、太陽から噴き出ている太陽風(プラズマの流れ)が非常に激しかったために、その強い太陽風によって、火星大気中のイオンが大量に引きずり出されたというのです。
でもそうだとすると、火星よりも太陽に近い地球からは大気がなくならないのでしょうか。その理由は次の通りです。地球の一番中心には、鉄とニッケルでできた固体の部分(内核)があるのですが、そのすぐ外側では鉄とニッケルが液体の状態で存在しており(外核)、そこには非常に高温の流れがあります。その流れが強力な磁場を生み出しているので、地球が大きな一つの磁石になっているのです(ダイナモ効果)。その磁場が、地球を襲ってくる太陽風を防いでいるのですね。
そして火星にもむかしは強い磁場があったらしいのですが、なぜかダイナモ効果が弱まって、磁場も弱くなってしまったのです。磁場を失った火星は現在よりもはるかに激しい太陽風をじかに浴び、次第に大気が宇宙空間に逃げて行きました(図2)。そして空気が薄くなったことで地表の水は蒸発してしまったと考えられます。なぜダイナモ効果が弱くなったのでしょう。それはみなさんの世代が突き止める番ですよ。それはともかく、次は火星の水についてお話ししましょう。(つづく)
的川泰宣さん
長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉教授。
日本宇宙少年団(YAC)
年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac-j.or.jp